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赤瑪瑙奇譚 第九章――4



 メドリが 扉を細く開けて、 大広間の様子を うかがった。

 大きく開け放たれた 広間の入り口から、 押し入ってきた者たちがいた。
 ここまで 一気に入り込むとは、 城内に手 引きした者でも いるのだろうか、
 意外に 人数が多い。

 皆、 旅人が 道中に着るような 袖なし外套を羽織っていた。
 一人が、 それを するりと足元に落とすと、 真っ黒い姿が現れた。

「いまさら 何が三国同盟だ、 和平だ。
 俺の可愛い二人の弟は コクウに、 竹馬の友は モクドに殺された。
 納得など出来るか!  俺は認めぬ。
 俺の手で すべてを破壊し尽してやる!  まずは 貴様らを皆殺しにする」

「ウルク殿下!」
 叫ぶように声をあげたのは、 マサゴから列席の アユチだった。
 反乱の首謀者は、 マサゴ王国皇太子 ウルク。
 ツクヨリを殺し、 国境付近で カムライを見つめていた 黒い男だった。

 ユキアが、 するりと 扉から姿を現した。
「静まりなさい!」
 ゆっくりと 歩き出し、 正面の壇上に 登っていく。
 七人の護衛が、 守るように さりげなく位置を変えていった。

「ふん、 腑抜(ふぬ)けた マホロバのお嬢ちゃんか。
 そなたには 我が恨みなど 到底分かるまい」
 ウルクは、 値踏みするように 真っ直ぐな視線を送った。
 その顔に 笑みはない。

「分かりません」
 あっけないほど さりげない ユキアの声は、 透き通って 広間に響き渡った。
 敵も味方も 呆気にとられた。

「わたしには、 戦で死んだ身内も 知り合いも いません。
 察することはできても、 全くわかりません。
 それを 幸せなことだと 思っています。
 ですが、 マホロバから来た 一部の人間を除いて、 この場にいる人々のほとんどは、
 少なからず あなたと同じ思いをしたはずです。
 恨みは恨みを生み、 連鎖して広がり、 終わることを拒(こば)むのでしょう。
 それを押して 先に進む決意をした方々の 強さに、 心からの敬意を表します」

 いつの間にか 姿を現していた カリバネ王が、 ゆっくりと笑みを漏らす。

「ふん 、戯言(ざれごと)だな。 夫になるはずだった男が殺されても、 そう言っていられるかな」

 ウルクの一言に、 広間に ざわめきが起こった。 カムライの姿が 見えなかった。


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コメント
281: by ポール・ブリッツ on 2012/07/13 at 16:50:21

ユキア姫、構いませんからこいつら全員、戦闘不能にしてやってください。骨の五六本は砕いてしまっても大丈夫です。

282:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/07/13 at 17:23:58 (コメント編集)

ん~ん、どうしましょうか。
そういうむさい仕事は、むさい男どもに任せたいのですが。

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