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へべれけな人たち 2−3

【すねの傷3】

「クドポンはさあ、やっぱ忙しいんじゃないの。
 二日酔いで、患者を切り損なって殺したらまずいじゃ〜ん。
 ふぇへっへっへ」
「シロクマちゃん、
 そろそろウーロン茶にしとこうか。
 笑い方が変だよ」
 マスターはさりげなくグラスを替えた。

「シロクマちゃんの前科って、道交法違反?」
 おばさんが、肉にかぶりつきながら聞いた。
「うん、駐禁。罰金刑だぞ。
 金が無い時に。俺のばっかやろ〜」


 扉が開き、ママが入って来た。
「ただいま。遅くなってごめん。
 材料は間に合った? 冷蔵庫に入れとくね」

 マサヤが、いつもの雰囲気に戻った事にほっとしてつぶやいた。
「駐禁ですか。びっくりしたなあ。
 なんだあ、マスターも道交法違反なの?」
「いや、俺のは風営法になるのかな。
 以前、バイトを募集したのよ。
 応募してきた女の子が、やる気がありそうだったんで、即採用したわけさ。
 さすがの俺も、あれは分かんなかったわ」
 思いっきりに顔をしかめるマスターだった。

「ああ、あの子。あれは女のあたしにも分かんなかったわ」
「なっ! 分かんないよな。
 厚化粧ばっちりだし、もの馴れた態度だし」
 互いに大声で言い合う店主夫妻が、ハモった。
「まさか十六歳だなんて!」

 夜中まで営業する店だ。酒を出す。
 当然、未成年を雇っちゃいけない。
 困った事に、その子は家出娘だった。
 マスターは御用になった。

 バイト本人は二十歳だと自己申告したが、
 三つ四つ年が上でも驚かないぞ と思っていたマスターは、
 逮捕されて、大ショックだった。

「それは大変でしたね。
 そうかあ、免許を持ってると、
 道交法違反の前科持ちって、そんなに珍しくないかもしれないですね。
 いや、違反しちゃだめだけど」
 マサヤがへらへらとお気楽そうに言った。
 運転免許は持っていないので、他人事だ。

「青年。
 運転免許を持っていないから大丈夫だと思うなら、それは間違いだ。
 道交法をあなどるなよ」
 おばさんがたしなめた。

「知り合いの話なんだが、うん、知り合いだぞ。
 ある時、近所の交差点を渡ろうとした。
 交通安全週間だったのか何なのか、警官がいたんだが、気づかなかった。
 歩行者信号は、折悪しく赤だった。
 交通量の少ない住宅地。さらに交通量の少ない時間帯。
 ほとんど車は通らない。
 信号なんか気にしなかった。

 急いで途中まで渡った所を、警官に止められた。
 間が悪かったんだよねえ。
 その直前、むかっ腹が立つ事があって、苛ついていたんだ。
 思いっきりむしゃくしゃしていた。
 見渡す限り、車も自転車も通行人さえ居ない。
 勢いで、ポリ公に楯突いたんだ。
『役にも立たない事やってんじゃねえよ!』
 勢いって怖いねえ。他にも散々ひどい事を言っちゃったらしい」

「あ〜、たまに居るわね。逆ギレしちゃう違反者。
 たいていは車かバイクだけど」とママ。

「そのポリさんはカチンと来ちゃったらしい。
 いきなり違反切符を切った」
「えっ、歩行者なのに?」マサヤが驚きの声を上げた。
「うん、歩行者なのに。
 いやあ、あったんだねえ。歩行者用の違反切符。
 信号無視は当然としても、
 横断歩道が近くにあるのに、違う所を渡ったとか、
 歩道がない道路で右側通行しなかったとか、
 酔って道路を歩いたとか、ちゃ〜んと印刷してある」
 おばさんは、自慢そうだ。

「俺、やっちゃってるな」
「うん、全部やってる気がする」
「でも、そんな違反切符、見た事ないぞ」
 店内の人々が口々に言って、ざわめいた。

「見た事のある人って少ないんじゃなかろうか。
 貴重な体験だよね。その知り合い。
 幻の違反切符を手にする事になった」
 おばさんは、グイとグラスをあおった。

「……道交法って怖い」
 シロクマは沈没した。

        


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コメント
3113: by LandM on 2015/08/28 at 21:13:19

確かに違反はどこにでもありますなあ。。。
まあ、罪の意識の問題ですけどね。
そういうのも経験を重ねるものですね。
違反は私も一回したじぇ。。。

3114:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2015/08/29 at 10:04:41 (コメント編集)

別件逮捕をしようとしたら、たいていの人はし放題って感じがしますなあ。

昔の偉いお坊さんが言いました。
「罰則が増えるのは世の中が乱れた証拠。良い事ではない」

人間が増えすぎたせいでしょうけれど、基本的な法だけでは足りなくなって、
細かい所まで法制化されていくみたい。
世知辛いわあ。

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