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へべれけな人たち 2−2

【すねの傷2】

「マスター、肉のかたまりはある?」
 奥のカウンターで飲んでいたおばさんが、声をかけた。

「あるよ。焼く? 良い塩梅に熟成してるよ。
 包丁を入れた時の感触が良い」
「おお、じゃあ、そいつをぐさっとやってくれ。厚めにね」
 Bが、また吹いた。
 Aの目が、落ち着き無く店内を泳ぎ回っている。

「はい、お待たせ」
 マスターが、三人の前につまみを並べた。
「久しぶりだから、腹にしみるわあ。娑婆は良いね」
 中年の言葉に我知らず反応したのは学生だった。
「……刑務所帰り?」
 思った事をそのまま声に出した事に、本人は気がついていないようだ。
「あちゃ〜〜」Bがあきれた。

 中年の視線が、学生からカウンターに座る二つの背中を通り、
 マスターで止まった。
「この店じゃ、前科者は珍しいか」
「どうでしょう。私も一つ持ってますからね」
 マスターは苦笑いでカウンターの裏に戻り、
 冷蔵庫から肉のかたまりを取り出した。
 慣れた手つきで、包丁を滑らせながら、
「まったく、ドジを踏んだもんだ。二度とあんなヘマはしたくない」
 忌々しそうに言い放った。

 カウンターで飲んでいた男が、うんうんとうなずく。
「そうだよねえ。
 前科がついたって事は、見つかって有罪になったって事だものねえ。
 どこから見ても失敗だよねえ〜。俺は、もうヘマはしたくな〜い。
 うひ〜っ、マスター、おかわり」
「はいよ。シロクマちゃん、飲み過ぎてない? 
 薄めにしとこうか。
 マサヤ君、おかわりは?」
「は、はい。お願いします。濃いめで!」
 学生は、酒に逃げ込む事にしたらしい。


 おばさんは、肉にかじりつく。
「肉美味—い。
 生きた人間の腹をかっさばく事にかけては、クドポンが語れると思うけど、
 近頃忙しいのかねえ」
「今日あたり来ないっかな〜〜。マスター、薄いよ〜」
 カウンターで、男がグラスを振った。

 中年の客は、箸を置いて立ち上がった。
 チンピラAとBは ほっとしたように、
 勘定を払い、三人は店を出て行った。
「ありがとうございました」


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