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へべれけな人たち 2−1

【すねの傷−1】

 私鉄の小さな駅の裏を少し進むと、線路沿いに、
 ピンク色のネオン管で「へべれけ」とだけ書いてある下に、
 古びた扉がある。

 通りかかった三人の男たちが居た。
「おい、ここで一杯ひっかけていくぞ」
 中の一人が扉に近づいた。
 体格のいい中年だが、
 乱暴な言葉ほどには、気迫のようなものは感じられない。
「なじみの店に話を通してありますから」
 チンピラ風の若いのが慌てて止めようとした。
 とりあえず、この男をチンピラAと呼ぶ事にしよう。
「あ、そうすよ。こんなチンケなとこよりゆっくり飲んでもらえっす」
 もう一人の若いの(チンピラB)も、
 精一杯、態度と表情で気遣いを表そうとした。
 
 中年は無視した。
 若い二人の言い分を無視することで、気分を少しばかり高揚させたらしい。
 古びた扉をずいと開き、店に入った。
 若い二人も、おどおどと従った。

 中は思った通り狭い。
 カウンター席が五つ。壁際に黒い長椅子とテーブル。
 奥のカラーボックスに漫画本とノート。
 立てかけられたギターが一本。
 カウンター席の奥には、おばさんが一人。
 一つ空けて、おとなしく飲んでいる男が一人。

 カウンターの中から、顔の長い ひげ面のマスターが、
「いらっしゃい」
 と愛想のいい声をかけた。

 中年を先頭にして、男たちは長椅子に腰をかけた。
 長椅子の奥には学生が居るが、漫画本の背表紙をチェック中で、
 入ってきた男たちを気にしていない。

「とりあえずビール」中年が言った。
「俺も」
「俺は、グレープフルーツサワ…痛っ」
 チンピラAが Bの頭を殴った。
「俺もビールで」 Bが言い直す。

「はーい、ビール三つね。先に二本だけ出しとく?」
 マスターが言いながら、メニューとおしぼりを差し出した。
「いや、いっぺんに出せ。おい、つまみは適当に注文しろ」
 と、メニューをAに渡す中年。

 Aが注いだビールに口をつけた中年が、ふうと息をついた。
「お前らは知らないんだよなあ。
 ヤッパをさ、ぐさっと人間の腹に刺したときの感触は、
 何とも言えねえんだよ」
 感慨深そうに宙を見つめる。

 Bがビールを吹いた。
「う……あ…あふ……あ、な、ぬ」
 Aが、手をわたわたと動かしながら、
 店内の様子を伺うように 見回した。

 学生が、自分のグラスをつかもうとする寸前で、
 固まっている。
 新しい客が入った事には気がついていたが、
 その客の言動が、非日常すぎて、全身がパニックを起こしていた。
 近くの席に座る羽目になった不運を、静かに呪った。


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コメント
3111: by LandM on 2015/08/22 at 06:04:08

おおう。典型的なへべれけだあ。。。
(*´ω`)

最近は、街中で飲んでいてもこういうへべれけは見たことがないですねえ。。。治安が良くなかったのか、飲むマナーが浸透してきたのか。
しかし、へべれけな人がいるのも飲みですね。

3112:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2015/08/22 at 09:02:24 (コメント編集)

ずいぶん久しぶりの「へべれけ」です。
「へべれけ」用のネタ帳があって、色々書いてあったんですが、
放りっぱなしでした。(自戒)
この先、続けられれば良いなあ。

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