赤瑪瑙奇譚 第八章――6
年が明けて、 婚礼の話が 華やかな話題を振りまいている まだ浅い 春に、
ユキアの元を、 マサゴの第二王子 おじゃる丸こと タマモイが訪れた。
「げっ、 今日は 何の御用ですの」
取次ぎに出たメドリは、 相変わらずの拒否反応で 出迎えた。
「メドリ殿に 求婚に参ったでおじゃる」
「本当の御用を おっしゃってください」
「……」
全く相手にされていない、 というか 摘み出されそうな勢いである。
「姫君に、 マサゴからの お祝いの品を 持って来たでおじゃる」
大事そうに、 しゃれた小箱を 持っていた。
部屋に通ったタマモイは、 ユキアに 箱を開けて見せた。
磨きぬかれた 銀の腕輪に、
深い 海の色のような 真っ青な青玉が 嵌め込まれている。
「これはまた 見事な腕輪ですね。 これをわたしに?」
セセナなら、 古風に過ぎる と言うかもしれない。
由緒ありげな 意匠である。
「はい、 モクド王国から 我が父の元に、
友好の印だと、 モクド金山から採掘された という金塊が 送られて来たでおじゃる。
それに 巫女の長からの手紙が 付いてきたのでおじゃる。
『マサゴ王国の 力ある宝玉を ユキア姫に 贈れ』 だそうな。
この青玉は 『人魚の涙』 という名で、
美しき乙女が 精霊を呼び覚まし、 王国に 平和をもたらす と伝えられているでおじゃる。
是非とも、 婚儀に お使い頂きたい」
マサゴ王国 伝説の一品であった。
「分かりました。 トコヨベ王に お礼を申し上げます」
「実は、 父王も我も、 よく意味が 分からんのでおじゃるが、
モクドの 巫女長が言うなら、 何か 理由があるのじゃろうと思うて、 お持ちしたでおじゃる」
ユキアには よく解った。
にっこり笑って見せると、 タマモイも 安心したように笑って、
「ユキア姫が売約済みとは、 つくづく残念でおじゃる。
しょうがないから メドリ殿で 我慢するでおじゃる」
と 余計な一言を付け加えたばかりに、 メドリに 追い出された。
「我慢しなくて結構です。 私が 絶対に 我慢できません」
着々と準備が進められ、 表面上は 何事もなく、 婚礼の日は 静かに近づいて行った。
第九章につづく
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