赤瑪瑙奇譚 第八章――5
「なんと、 軍師が 直接参ったか。 ウガヤ殿、 して、 用件はなんじゃ」
ユキアとメドリに、 間違いなく コクウの軍師だ と紹介された男を、
王は 目を丸くして眺めた。
「知っている人間を 最小限に抑えたくて、 失礼ながら、 こんな姿で まかりこしました。
婚礼の儀について、 ご相談があります」
「うむ、 事情は 承知しておるが、 発表したからには あまり先延ばしにするのも どうかと思うぞ」
ホヒコデ王は、 ウガヤの扮装を 気にしない事にした。
「はい、 仰せの通りにございます。
こちらも、 奴らを引っ張り出そうと、 三国の王と重臣たちの会談を催しましたが、 動きませんでした。
どうしても 大掛かりに 事を進めたいようです。
姫様を人質に、 貴国を始め 他国の介入を 押さえたいのでしょう。
そこで ご相談ですが、 初めの計画通りに 婚礼の儀を行いたいと思います」
「大丈夫なのか」
口ほどには 心配そうでもなく、 問いかけたホヒコデ王に、
ウガヤも まるで芝居の段取りを決める 流れ芸人 さながらの、 人を食った答えを返した。
「いいえ、 危険です。
そこで 万一に備え、
姫様はじめ マホロバからご列席の方々を 替え玉にて 執り行うことを、
ご承知おき頂きたく お願いに 上がりました」
ウガヤの話を聞いて、 しばし 考え込んだ王が黙っていると、
ユキアが、 静かに 割って入った。
「嫌です。
自分の婚礼に 替え玉を使って、 わたしが欠席するなど 嫌です。
一生に一度の婚礼を 他人に 譲りたくありません」
「お気持ちは ごもっともですが、 危険が伴います」
ウガヤは 一応 念を押したが、 誰も聞いてない。
「確かにな、 ユキアの言い分も もっともじゃ。
マホロバ王国ともあろうものが、 偽物を使う というのも沽券にかかわる。
ウガヤ殿、本物で行こう。
マホロバの者には 屈強な護衛をつける。
しかし、 護衛をするだけじゃ、 騒ぎには 手を出さぬ。 それは そちらで何とかしてもらおう。
その代わりに 万が一、 何かあっても 文句は言わぬ と確約しよう。
ユキアもそれで良いな。 人質になっても 救ってはやれぬ。 その時は 諦めよ」
「はい、 ありがとうございます。 陛下」
なんとも 胆の据わったじい様と 孫娘だと、 ウガヤは 内心舌を巻いた。
両親である皇太子夫妻、 ウナサカとテフリも、 話を聞いて 替え玉を断った。
こうして、 婚礼の日程が決まった。
翌年の春、 マホロバにも コクウにも 花が咲き乱れる頃に……。
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