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ずぼらなユン、やぶれかぶれ 4−3


 開演時間が迫ってくるに従い、熱気が盛り上がってきた。
 不意に 客席が薄暗くなり、
 スクリーンを隠した臙脂色の幕がある舞台だけが 明るく残った。

「火梛君、帽子と眼鏡は取っちゃいなさいよ。
 暗くなったから大丈夫。 鬱陶しいでしょ」
 加太和布先生が そそのかしている声が聞こえる。
 映画より火梛を見ていたいらしい。
 良いのだろうか。

 会場のざわめきが静まっていき、マイクを持った司会のお姉さんが登場する。
 どーでも良いような挨拶をしているとき、
 舞台袖下の暗がりに、身をかがめて、うずくまっているものに気が付いた。

「それでは、ご登場いただきましょう。
 七曲峠(ななわだとうげ)監督と 主演のお二人、
 玉輝美童さん、五倍子染(ふしぞめ)ミナワさんでーす」
 司会が大げさに腕をさし伸ばし、袖から三人が登場した。
 会場は 黄色い歓声にあふれかえる。
 と同時に、それまで暗がりにうずくまっていた影が、
 ササッと動いて 中央めがけて移動した。
 怪しい。

 舞台では、花束を抱えた女の子たちが袖から出てきて、
 中の一人が 色とりどりの花束を監督に渡し、会場内にお義理の拍手がなる。

 暗がりでは、怪しい影が動いて 何かを取り出した。
 次に、クリームホワイト一色の見事なバラの花束を持った女の子が進み出る。
 怪しい影が、取り出したものを舞台に向けた。
 私は 通路に飛び出してダッシュする。

 女の子が、いかにもぶりっ子風に小首をかしげるようにして、
 腕をいっぱいに伸ばして 花束を差し出した。
 私は 影をつかんで投げ飛ばした。

 目の端に、前の座席の背もたれを蹴って
 舞台めがけて飛び上がる火梛の姿が見えた。

 私は、投げ飛ばしたものから、持っていたものを叩き落す。

 火梛は 飛び上がりざまに抜き放った剣で、
 白いバラの花を一閃した。

 私は 怪しい影の腕を捻り上げて押さえ込む。

 明るい舞台に 白い花びらが豪華に舞い散った。
 臙脂色の緞帳を背景にして、白バラの花びらが舞い狂う様を、
 スポットライトが華やかに浮かび上がらせる。

 ぶりっ子は悲鳴を上げ、
 一瞬にして茎と葉っぱだけになってしまった花束を放り出した。
 その時、花束の残骸から 何かが吹き出した。
 舞台に飛び散ったところから、うっすらと白い煙が上がる。
 薬品! 硫酸とか塩酸とか、そういうものなのだろう。
 つんとした刺激臭もする。
 舞台の上も下も大騒ぎになった。
 何事かと、係員と警備の警察官も飛び出してきた。

 しかし、抜き身を下げたまま 火梛が振り向いた途端、
 観客は息を呑み、一斉にため息をついて静まり返った。
 まばゆい照明に照らされた火梛は、
 間違いなく、この場の主役だった。
 初めて会ったときと同じ姿の火梛は、壮絶に美しい王子様だった。
 美童なんて目じゃない。

 シーンとした会場に、
 火梛の朗々とした声が響き渡る。
 マイクなしでもよく通る 張りのある声だ。
「無言堂! 出て来い。
 ユンを危険な目にあわせた所業、許しがたい。
 成敗してくれる」
 感動のあまり、しばらくは何のことやら分からなかった。
 火梛は私のために、こんなに派手なことをぶちかましてくれたわけ? 

 やっと ボラボラ坊ちゃん邸の火事のことだと気が付いた時、
 動きの途絶えた会場の後ろから、出口に向かって走る人物が居た。
 他に動くものの無い中で、思いのほか目立つ。
 近い席にいる観客から 怯えた悲鳴も上がる。

 火梛が舞台から飛び降りるまでもなく、
 出口付近に居た警察官らしい人物が 飛びかかって押さえた。
 伸び上がってみると、達磨坂警部だ。
 思ったより優秀な警察官だったじゃないの。
 周りの観客席から拍手まで貰っている。

 捕まったのは無言堂。
 彼ももちろん二枚目だ。
 次々と湧き出てきた美貌の男たちに、
 会場は、もはや美童なんかそっちのけで盛り上がっていった。


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コメント
2847: by LandM on 2015/03/21 at 16:20:59

開園、舞台、。。。いいですよね。
臨場感があります。それが舞台というものであり、
テレビやラジオを越えて伝えるものがある。
そういうものですよね。

2848:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2015/03/21 at 17:14:01 (コメント編集)

やっぱライブですよね。
映画も大スクリーンで、他の観客と一緒に観たいっす。
時に、笑い声や悲鳴なんかを上げながら。

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