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クロウ日記 六

 やがて クロウが 一人の男を雇い入れた。
 濃い髭が 顔中を覆い、 合わせるように 髪の毛もぼさぼさなのが 宮中では 異例である。
 正式な官吏ではないため 下官というわけにもいかず、
 個人的な下僕 という扱いに収まった。

「執務室で 動物を飼うのは駄目だ といわれたが、
 これなら 犬の代わりになる。 趣があって良い」
 とは クロウの弁だが、 犬というより 熊に近い。

 変人王子のすることは よく分からないが、 この程度であれば、
 と さして気にする者もいなかった。
 何事もなく 無事に戻ってきたことだし、 予想に反して おとなしく見えたことに安心し、
 変人といっても 省の長官ともなれば 無茶を出来ないのだろう。
 新しく入れた下僕が 髭男だということくらい はなんでもない。

 見た目はともかく、
 髭男が口数も少なく 穏やかな人物であることも 更なる安心の種だった。

 ともすれば 愚鈍に見える人の良さで 周囲にも程好くなじみ、
 愚痴も黙って聞いてくれる 聞き上手。
 というより ほとんどしゃべらなかったから、 なるほど犬の変わりになる、
 と警戒する者は どこにもいなかった。
 この下僕が来てからは、 裏で何をしているかはともかく
 表向きクロウの奇行も すっかり影を潜めた。
 公私にわたってこき使われているらしい髭男が、 宮中を まめまめしくうろつくようになり、
 クロウは 人前に姿を見せなくなった。


「そろそろだな。 新官吏の登用試験も近づいたし、 人が動く時期でもある。
 安心してボロを出してくるだろう。まずは 全部証拠を集めることだ。
 仕上げは私が指示する。 それまでは 早まるな」

 これからが クロウの目論んだ 大掃除の本番であった。
 宮中に巣食って 私服を肥やす魑魅魍魎の 一斉退治。
 各部署の掃除は 準備の小手調べに過ぎなかったのだ。

 髭の下僕カケルが、 さらに 綿密な調べを 続けていった。
 はじめは こそこそした調査は苦手だったカケルも、
 次第に要領を得て 成果が着々と上がっている。
 大物もいれば小物もいて、 様々な悪さの証拠が 揃いつつあった。

 中務卿の執務室に訪れる者は めったにいなかったが、
 二人きりであっても、 話をする時 クロウは カケルを傍に引き寄せた。
 たいていは 「もっと近くに」 とでも言うように 腕をつかんで 間近に目を見ながら話す。
 カケルは 慣れることなく、 毎回 どぎまぎすることになる。
 離れようとすれば さらに引き寄せられるので、 何とかしたいのだが 出来ずにいた。
「は、 はい。 クロウ様の覚書が みな良い所を衝いているようで、 大変助かっています。
私の件を持ち出さなくても、 遠からず 一網打尽に出来るはずです」

 クロウが さらに近づいた。
「何故 自分の件を持ち出さない。
無実が晴れれば 名誉を回復できる。 官吏に戻ることも可能だ。
そなた一人では無理なら、 私が また 無精ひげを生やして 動いてもよいぞ」

 顔がくっつきそうな近くから、 目を覗き込まんばかりに見つめられ、 息を吸うのが困難になる。
 無精ひげは やめて欲しかったが、 声が出ないので 首を横に振った。

「…………」
 不意に黙ったクロウの瞳に射すくめられて、 身動きもかなわないカケルは、
 ささやかな違和感を覚えた。
 クロウは 言おうとした言葉を飲み込んでいる。
 非常に珍しいが、 何かを我慢していた。
 しばらく無言のまま見つめられ、 窒息してしまうかと思った時、
 やっと クロウが離れた。
 思わず 大きく息を継ぐ。
 
 何を我慢しているのだろう。
 それまでに知り得たことを総動員して 考えてみたが、 皆目 検討もつかなかった。


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コメント
1828:久しぶりにこちらに。 by 楓良新 on 2013/12/15 at 02:37:24

長らくこちらに来てなくてすいませんね。
久々に来て、ここを読んでみましたが、クロウは相変わらずの無茶振りですね。
カケルは翻弄されるでしょう。
でもクロウは国のため、カケルのために動いてるんだなって思います。

1829:Re: 久しぶりにこちらに。 by しのぶもじずり on 2013/12/15 at 16:28:21 (コメント編集)

楓良新様 いらっしゃいませ
お忙しいでしょうから、読んで頂けるだけで嬉しいです。
いつでもお待ちしています。

こちらこそ
コメント下手で、読み逃げになってしまい恐縮です。

クロウはカケル限定で、意外に健気な奴なのです。
丁寧に読んで下さって ありがとうございます。

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