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ずぼらなユン、やぶれかぶれ 3−6


 自宅では、別口が待ち構えていた。
「ねえ火梛君。 どこか観たい所はなーい? 
 明日私が案内するわ。 もっとカッコイイ服も買いましょう」
 通りすがりの旅人だということは 疑っていないらしい。
 しかし、父さんの服は 自分で買ったものだろうに。
 久しぶりに ドーナツが食べたくなって作っていたら、
 母さんが擦り寄ってきて、火梛を誘った。

 ドーナッツは 唯一の得意料理だ。
 近頃は、台所を粉だらけにして怒られるようなこともなくなった。
 私は揚がったドーナツに砂糖を振り掛ける作業を終えた。

「いや、ユンと一緒がいい」
 言いながら私を見たが、気のせいだろうか、
 無愛想な顔が、ふわりと解けた。
 だんだんと なつかれている気がする。
 だが 母さんの顔を見て、ぎょっとした。
 表情は変わらないものの、瞳から星が消えている。
 まずい。 この感じは良く知っている。
 葱坊主の親玉を買ってきた時よりも機嫌が悪い。

 家電製品のお知らせ音に呼ばれて、母さんが部屋を出て行くと、
 思わず食卓にぺたりと顔をつけた。
「……ああ……また………… ヤキモチを焼かれる」

 ドタドタと乱暴な足音が通り過ぎて、台所に向かった。
 冷蔵庫や戸棚を開け閉めする音が、
 「お腹空いちゃった」 という陽気な声とともに聞こえる。
 真麻彦だ。 これだからデブが治らない。
 食卓の上の 山盛りドーナッツを見つけたらしく、
 小さな歓声があがり、足音が台所を往復する。
 何をしているのだろうと顔を上げると、牛乳とコップが三つ並んでいた。
 火梛効果だ。
 私だけだと、ここまでの手際を発揮しない。

「王子さまも食べて」
 同室で寝ているせいか、仲良しになったみたいだ。
「おう、美味い。 美味いぞ。 ユンも食べろ。
 己が食べさせてやる。 口を開けろ」
 作ったのは私だ。
 しかし、本気かこいつ。
 男の人に食べさせてもらったことなんか無い。
 本当だったら初体験だ。
 このところ、人生の初体験街道をまっしぐらに進んでいる気がする。
 ええい、突き進んでやるさ。
 大口にならないように、そっと口を開けたが、
 ドーナッツを 丸ごと咥えさせられた。
 思っていたのと違いすぎる。
 ドーナッツを丸ごと咥えて 目を白黒している私は、
 相当間抜けな姿をさらしているはずだが、
 二人とも 食べることに忙しいようで、
 ありがたいことに見向きもしない。
 何の放置プレイだ。

 まったく火梛ときたら、
 台詞は遊び人風だが、行動がとことん野性的だ。
 負ける。
「このように美味なものは、初めて食した。
 真秀良は魔法の国だ」
 嬉しそうに笑う顔は、子どものようにあどけない。
 甘党らしい。
 真麻彦がクスクス笑う。

「お姉ちゃん。 火梛王子って面白いね。
 始めてきた日に、もう寝ようと言ったら
 『まだ昼間ではないか』って言うんだ。
 明かりを消したら びっくり仰天してるんだもん、笑っちゃった。
 それでも『まだこんなに明るいぞ。 真秀良には本当の夜は来ないのか』
 だって。
 王子さまの国では 夜は真っ暗で、
 月が出ていなければ 一歩先も見えないくらいなんだってさ。
 代わりに 星は真秀良の何倍もあって、
 金色の砂を撒き散らしたみたいに たくさん輝いてるんだって。
 すごいなあ」
 胡枇では たくさんの街灯があるし、水力車の前照灯が行き交っているし、
 一晩中明かりの付いた建物もあって、
 部屋の明かりを消しても 真っ暗になることは無い。

 そういえば 真麻彦は完全な室内派だった。
 田舎に旅行をした時も、
 部屋でテレビを見てゲームをして 寝てしまう子だった。
 今度田舎に行く機会があれば、たくさんの星を見せてやろう。
 姉として、弟の育て方を考えたほうがいいかもしれない。

 それはともかく、
「明日は、星来と美術館に行く予定なんだけど、
 一緒に行く?」
「もちろんだ。 ユンといると楽しい」
 いちいち口説かれているようなこの話し方は、
 なんとかならんもんだろうか。
 慣れない。

 戊日は自由研究の日だ。
 芸大の学生は、事務局に申請すれば 美術館の入場券が無料で手に入る。
 今回、星来はどうやったのか知らないが、一枚余分に手に入れていた。
 評判の『松毬(ちぢり)コレクション』を見に行く予定になっている。
 大富豪で趣味人だった松毬翁が集めて、
 死後、美術館に寄贈されたものだが、
 今回は 初めて全点が公開される。
 古いものばかりの収集品に、
 自称麻本呂婆の王子様は、どう反応するのだろうか。


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コメント
2775: by lime on 2015/02/01 at 11:13:44 (コメント編集)

ユンの家での様子は、いつもすごく楽しいです。
この家族も変わり者だけど、火梛の行動も予測不可能でおもしろい。
そして、一番純粋にときめいてるユンが、かわいいですね。

2776:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2015/02/01 at 18:21:04 (コメント編集)

そういえば、登場人物の家庭内の風景は、あんまり書いていないかも。
ホームドラマにも挑戦しようかしら。
ファンタジックホームドラマ、とか。
うむう、ネタが思い浮かばない。

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