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ずぼらなユン、やぶれかぶれ 2−16


 扉を開け、姿を覗かせたのは、
 二十代後半の ひょろ長い男だった。
 どっかで見た気がする。 誰だろう。

「警部さん、お待ちしていました。 どうぞ」
 部屋に招きいれられると、
 そこは 広すぎるというほどではないが、
 ゆったりとした続き部屋になっていた。
 壁や扉ではなく、
 しゃれた間仕切りで、くつろぐ為の空間と 寝室が仕切られていて、
 この人数でも なんとか間に合うだけの椅子と 長椅子もある。
 勧められて 皆腰を降ろしたが、
 火梛は 立ったまま部屋を眺めていた。

 思い出した。
 コメダワラ作品に必ず登場する、赤白の横縞シャツを着た男に似ている。
「先生お久しぶりです。
 加太和布先生も ご一緒とは思いませんでした。
 お会いできて嬉しいです」
「ホテル住まいをしているのね。 絵は何処で描いているの」
「画室を別に借りています。 独身者なのでホテルは楽です」
 すると、この人がコメダワラなのか。
 アレは自画像だったんだ。
 言葉とは裏腹に、あまり嬉しそうに見えないのは 事件のせいだろう。

「先生には 捜査に協力していただいています。
 そして彼らは、あなたの後輩たちです」
 大雑把に紹介された私たちに向かって、
 挨拶代わりに 「やあ」と挙げた片手にも 力が入っていない。
「今日は何でしょう。 もしかして犯人が分かったんですか」
「いいえ、申し訳ありませんが まだです。
 昨日、お笑い芸人のボラボラ坊ちゃん邸が火事に遭いました」
「ニュースで見たような気がします。
 それが何か」
「邸内の五箇所から 自動発火装置が見つかりまして、
 放火と判明しました。
 発火場所の一つから、これが発見されたので、
 見ていただこうと思いまして」
 へえ、そうだったんだ。

 達磨坂が写真を取り出した。
 受け取ったコメダワラの手が、かすかに震えた。
「僕の絵だ」
「間違いありませんか」
「ええ、自分で描いたものですから確かです。
 『春だバンザイ』の一部です。
 芸術性のかけらもないとか、ウケ狙いの売り絵だとか、
 いろいろ言われていることは知っています。
 確かに、
 僕が描きたかったものとは違う路線の作品ばかりが評判になってしまって、
 正直、戸惑っていないと言ったら嘘になります。
 でも、喜んでくれる人が居るならと、
 これでも精魂込めて描いているんです。
 手を抜いたことは 一度もありません。
 専門家に貶(けな)されようと、紛れもなく僕の絵です。
 だから、切り取り方がどんなに芸術的だったとしても、
 切り取った奴の作品じゃありません。
 僕の作品です」
 写真に見入ったまま、一気にしゃべった。
 色々と思うところがあるのだろうが、
 作品の成功も失敗も 自分のものだと言いたいのか。

「それでですね、
 ボラボラ坊ちゃんとは 何か関わりがありませんか」
「いいえ、テレビで見たことがあるくらいです。
 直接関わったことはありません」
「やっぱりそうですか。 あちらも同じことを言っています」
 クリちゃんが事情聴取している。
 わあ、ドラマじゃない。本物だー。

「烏帽子丸木童は?」
 加太和布先生が口を挟んだ。
 捜査権がないのに、そんなことをしていいのか。
 コメダワラは首を横に振る。
「知らないですね。 どういう人なんですか」
「近頃売り出しの建築家です」
「やっぱり知りません」
「ここまでするからには、何か接点があるかと思ったのですが、
 無しですか」
 達磨坂が困っている。
 作者としては 口惜しいだろうが、
 コメダワラ作品も、あの迷惑なボラボラ邸も、
 無くなったからといって世界の損失とはいえないだろう。
 悪いけど、あんまり惜しい気がしない。

 その時、部屋の明かりが パッと明るくなった。
 火梛が 照明の光量スイッチを触ったらしい。
 スイッチを 鋭い視線で睨んでいた。
 なあにやってんだか。

          第三章に続く


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