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赤瑪瑙奇譚 第七章――8



 ツクヨリは 夜叉となって、 真夜中の闇を 彷徨(さまよ)っていた。

 準備を重ねた計画が、 水の泡となって 消えた。
 それが、 嫉妬に狂って おろかな行動に走った自分が 招き寄せたことだと、 今は 厭でも解る。

 辻斬り騒ぎのせいで、 遅くまで 外を歩く者はいない。
 酒場に 閑古鳥が鳴いている という。
 人っ子一人いない闇夜を、 夜叉が 彷徨う。

 二番目の兄を陥れるために 辻斬りもした。
 目障りな長兄を殺す為の 策略も巡らした。
 焦っては 身の破滅だ と気づきながらも、 止められなかった。
 生まれる時を 間違えたと思ったが、 生まれながらに 間違えている人間など いるのだろうか。

『分からん』
 兄が 言い返した言葉と 同じ言葉しか、 思いつかなかった。

 剣の腕は もとよりかなわなかった 。足元にさえ 及ばない。
 ならばと、 戦略を学んだが、 何故か 戦果は上がらなかった。
 窮地に陥って、 助けられる破目にもなった。
 やはり 何事も 兄には勝てなかったミノセが、 それでも 慕っているのが うとましくさえなった。

 和平の話が持ち上がって、 今度こそ と思ったのに、
 ツクヨリの予想に反して、 父王の右腕になり、 次々と 講和に向けて 有効な手を打っていく兄は、
 戦の英雄から 頼もしい 平和の担(にな)い手になろうとしていた。

 何故だ。
 何故 私の手には 何も無い。
 掌を そっと 開いてみた。
 そこから、 ほのかに 菊の花の香りがした。

「ツクヨリか。 おぬし、何という姿をしている」
 低い男の声が、 ツクヨリの行く手を遮った。

 知らず、 町外れに近いところまで 来ていた。
 林と呼ぶにも頼りない、 まばらな木立の生えた 手付かずの空き地だ。

 眉のように細い月と 満天の星が、 かろうじて 浮かび上がらせたのは、 闇よりもなお暗い 漆黒の男。
 着衣の形は 優雅といっても良い 洗練された工夫がなされているが、
 全て、 喪を纏うような 黒だった。
 長身の 逞しい体を持つ男の顔は、 見目麗しいとはいえず、 端整ともいえなかったが、
 人を引き付けずにはいられない 不思議な魅力があった。

「コクウで おかしな事件が起きている と聞いて、 確かめに出向いたのだが、 おぬしの仕業だな。
 浅はかな。 やはり 使えぬか。 大して当てにもしていなかったがな」
「くっ、」
 男に気圧されて、 勝手に 身体があとずさる。

「もういい。 消えろ。 おぬしが執心の姫は、 俺が ゆっくり可愛がってやる。 案ずるな」
 無造作に 大剣を抜いた。
 それを受けた剣を、 あっさり なぎ払った勢いのままに、 ツクヨリの身体を 切り裂いた。

「あ……に……うえ」
 倒れながら 最後に口にしたことばに、 自身が呆然として、 ツクヨリは 事切れた。
 優しく、 悲しげな 死に顔だった。


 あくる年、 空き地に 小さな白菊が咲く。

 小ぶりながらも、 ふっくらと 精緻な八重に咲く花は、 中心が 淡い翠色(みどりいろ)をしていた。
 咲ききれば 花芯は 鮮やかな翠だが 、ほとんど 咲ききることなく 萎れるという。

 誰言うとも無く、 『ツクヨリ菊』 と名づけられた菊は、
 切なくなるほど 芳しい匂いを 放った。


                        第八章につづく

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コメント
245: by lime on 2012/07/04 at 18:39:47 (コメント編集)

ああ~、ツクヨリが。
冷徹にツクヨリを斬ったのは、兄上?
と、いうと、まだちゃんと出てきていないあの人でしょうか。

ツクヨリ、何気に気に入っていたので、ショックです><

246:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/07/04 at 19:08:03 (コメント編集)

すいません。殺しちゃいました。

基本、作中人物を むやみに殺したくはない ほうなのですが、すでに 大工さんも殺しちゃいました。
成り行きです。ごめんなさい。

432: by blackout on 2012/08/16 at 01:53:05

因果応報ですね

人を陥れようとしたり、あわよくば命すら奪おうとした

その報いは必ず本人に返ってくる…

自らを他人と比較するよりも、自分にしか出来ないことを見つけた方がよい…

そんなことを思ったりしました

433:Re: blackout様 by しのぶもじずり on 2012/08/16 at 10:20:25 (コメント編集)

いつもコメントをありがとうございます。
「赤瑪瑙奇譚」を気に入って頂けたようで嬉しいです。

3287: by 椿 on 2015/11/13 at 21:15:43

ツクヨリ王子、哀れな最期でした。憧れる気持ちとうらやむ気持ち。両方が心の中にあったのでしょうね。
そして黒幕登場? ユンの冒険はまだ続きそうですね。
また拝読しに参ります!(^o^)丿

3288:Re: 椿様 by しのぶもじずり on 2015/11/14 at 12:06:22 (コメント編集)

悲劇って、自分にふりかかるのはごめんですが、
書いていると、なにげに盛り上がってしまいます。

読んでいただいて、ありがとうございます。

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