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ずぼらなユン、やぶれかぶれ 1-14

 案の定、 世間は 『コメダワラ作品の切り裂き事件』 で持ちきりになり、
 コメダワラが入院してしまったこともあって、
 連日のニュースは そればかりになったが、
 私的には何事も無く 三日が過ぎた旬の半ば、 戊(つちのえ)日の午後。
 自主研究の時間なので、
 いつもならアトリエで絵を描いているか、
 不本意ながら図書室で調べ物をしているのだが、 どうも気分が乗らない。
 こういう時は、 無理をしないで 無精を決め込むにかぎる。

 テレテレ歩いていると、
 何処からか湧いてきた加太和布先生に いきなり鞄を渡された。
 重い。
「暇そうだから 鞄持ちをさせてあげる。
 鈴木愛がぼうっとしていて、 まだ使い物にならないのよ。
 しょうがないから あんたでいいわ」
「そんな勝手に……」
「どうせ、 横着して帰るとこなんでしょ」
 すっかり帰り支度で、 肩掛け鞄を斜め掛けにしている私を じろりと睨んだ。
「さっ、 二丁目大学に行くわよ。 さっさと来なさい」

 胡枇の実芸術大学校の所在地は 南大町一丁目だが、
 二丁目にも大学校があって、 そっちは理数系の学部ばかりだ。
 ご近所なのに とんとご縁が無い。
 名前は控えめなのに、 中身と来たら 真秀良で一ニを競う優秀な大学校だから、
 足を踏み入れる気にさえならない。
 いったい先生は何をしに行くんだろう。

「コメダワラの作品を切り取った凶器が 判明したんだって。
 クリちゃんから連絡があったの。
 虚維も気になるでしょ。 ちょうどいいじゃない」
「気になりません」
 一応主張してみたが、 案の定一顧だにされない。

 胡枇芸に比べて倍はありそうな 広い玄関広間に着いた。
 待ち合わせをしているらしい。
 加太和布先生は、 立ち止って周囲を見回した。
 行き交う学生たちから もれ聞こえる会話が意味不明で、 落ち着かないこと甚だしい。
「近接場光の精密な測定器が……」
「ムペンバ効果について仮説を ……研究者……」
「五次元からの投影における特異点だよ ……それは論文が……」
 言語は通じるのに内容が意味不明なのは、
 耳障りで知らない外国語よりも始末に悪い。
 泳がせた目の先に 歴代学長の肖像画が見えて、 少しほっとした。
 もともと于鉧の出石(いずし)二丁目に在った大学校が移転しているから、 歴史は古い。
 肖像画も 時代に沿って たくさん並んでいる。
 理解可能な世界を求めて 絵に近づいた。

「虚維は 肖像画に興味があるの」
「いえ、 全然」
 でもどうして 肖像画って、 時代が下って現代に近づくほど 面白くなくなるんだろう。
 古い物ほど面白い。
 モデルの問題なのか、 絵描きの問題なのか、 それとも 見る側の問題なんだろうか。
 分からない。
 広い世界には、
 私にとって理解可能なものが ほんの少ししかない事を 思い知っただけだった。



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   ≪ちょっとした言い訳≫
     この世界のどこかにも、ムペンバ少年が居る、という設定です。
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2670: by LandM on 2014/11/29 at 23:32:18

肖像画もなんだか時代を表しますよね。
風景とかも勿論時代を表しますけど、
特に人物はその人の服とか髪とかが時代を象徴していて、良いものだと感じます。

2672:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2014/11/30 at 10:53:29 (コメント編集)

イタリアのアッシジに行ったことがありまして、
あそこは、聖フランチェスコ教会で出来ているような町でした。
サンタ・キアーラ聖堂は、ジョットの壁画や、
聖キアーラの遺体が、髪の毛もそのまんまに残っていて有名ですが、
いくつもの聖堂があります。

どの聖堂だったのか思い出せないのですが、
歴代の教会長の肖像画がずらりと並んでいる部屋があったのですよ。
その肖像画が、まさに書いたように、古い方が断然面白かったのです。
昔の肖像画は個性的。もっと言えば、見るからに危なそう。
新しくなるほど面白くない(笑)
なんなのでしょうね。

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