RSS

ずぼらなユン、やぶれかぶれ 序ー5

 乙(きのと)日の午前中はぶっ通しで加太和布先生の授業なのだが、
 美術館は休日の翌日に当たる甲(きのえ)日が休館なので、
 乙日から始まる展覧会を見物する課外授業になることがままある。

 テレビ関係を含めて各方面に顔が利く先生は、割引券や只券を大量に入手可能らしく、
 それは有難いのだが、見に行く展覧会は玉石混交である。
 とにかく何でも見て、自分の目を養えというのが教えだ。
 「コメダワラ・リュウの世界」は大手百貨店の催事だが、
 その百貨店も美術館と同じで、十日に一度、毎旬、甲日が定休日なのだ。
 次回の授業は展覧会初日の課外授業に決定である。
 協賛しているテレビ局から、只券を大量にむしり取ったみたいだ。
 その辺の手際はいつも見事だ。

 何はともあれ、私たちはぶらぶらと無言堂の店内を物色して歩いた。
 商品はきれいに整理されて美しく並べられているし、
 感じの良い音楽が静かに流れているから居心地も良い。
 置いてある小さな複製画や絵葉書も趣味の良いものばかりなので、一度思わず口に出したら、
 無言堂が企画販売しているのだと、おしゃべりな店員が自慢していた。

 とにかく楽しい。
 私は衣服屋やら装飾品の店やら靴屋鞄屋の類を見て回るより、
 画材店や文房具店が好きだ。
 思わず興奮して便秘も治る。

 オイルが並ぶ棚に進み、物色し始めたが、
 目当てにしていたオイルは値段を見て焦った。
 思っていたより随分高い。悩むなあ。

 ふと目を上げると、美形店長と目が合った。
 何故だろう、私を見てにっこり微笑んだのだ。
 何度も来店しているが、こんなことは初めてだ。
 何が起こった。
 驚天動地の事態に、声フェチの私もさすがに無い胸がときめいた。
 しかし、せっかくときめいたというのに、それでおしまいだった。
 なんのこっちゃ。
 少しはおまけしてもらえるかもと思った私が浅はかでした。
 なんにしても、いくらかでも愛想が良くなった兆しがあるのは、
 商店主として進化したのかもしれない。

 結局私は相当迷った挙句、胡枇記念塔のてっぺんから飛び降りるつもりで、
 目当てのオイルを一瓶手に入れた。
 星来はというと、値段も気にせず高価な絵の具を買い漁った。
 同じ色の絵の具でも、天然顔料を使った絵の具は発色が違う。
 安価な合成絵の具に比べて、鮮やかで純度の高い迫力のある色が出る。
 そういう絵の具を使っただけで、二割がた絵が立派に見える、
 というのが星来の持論だ。
 高価な絵の具を惜しげもなく使って、怪しくも不気味な絵を書く。
 私と違ってお金持ちだから、買い方に容赦がない。
 貴族の家系だからおっとりしているのかと思いきや、
 どういうわけか先祖代々商売上手な家柄らしい。
 とんでもない金持ちである。

 かくして、私はささやかな、
 星来は豪勢な買い物を楽しんで家路に着いた。
 西の空に、真っ赤な夕陽が大慌てで沈んでゆく晴れた秋。
 世界は平和に思えた。


            第一章につづく


戻る★★★次へ

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
2999:最後が… by アマノジャック on 2015/06/04 at 23:11:38

いくつか作品が上がってあったので、迷いましたがこれを読むことにしました。
ほんわかした雰囲気がいいですね、ほっこりします。

…と思っていたら最後の一文が。気になるので、また読みに来なくてはいけなくなっちゃいました(笑)

3001:Re: 最後が… by しのぶもじずり on 2015/06/05 at 02:26:06 (コメント編集)

アマノジャック様いらっしゃいませ。
読んでいただけてうれしいです。
是非! またのお越しをお待ちしています。
ご感想をいただけると、ものすごくうれしいです。
ありがとうございました。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア