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富士山の見つけ方 2


 一日目は、 あいにくの曇り空だった。
 美術館を見物し、 強羅温泉の旅館に着いた。
 富士山は見えなかったが、 温泉は気持ち良かった。
 焦ることはない。
 旅は 始まったばかりだ。

 翌日、 ケーブルカーとロープウェイに乗ったが、
 ガスばかりで 景色はまったく見えず、 もちろん、 富士山の影も形もない。
 温泉卵は食べ損ね、 芦の湖で船に乗り、 元箱根へ。
 旧街道の杉並木を歩き、 関所跡を見物した。
 もう 完全に ただの家族旅行だ。

 しかも、 ほんの少しではあるが、 富士山から遠のいてしまった。

 別の旅館に泊まって、 最終日、
 まだ 富士山を見ていない。
 このまま帰ったら バカみたいである。
「富士山を見たい」
 きっぱりと言ってみた。
 他の場所に行きたいと言われたら、 別行動にすれば良い。
 ここまで おとなしく付き合ったのだ。 もう良いだろう。
 一応 大学生なんだし、 元々 一人で来るつもりだったのだ。

「よし、 富士山な」
 父親は タクシーを呼んだ。
 富士山がきれいに見える場所を通って、 帰りの駅まで移動するつもりだ。
 いさ子は、 タクシーで富士山見物 ということに 多少の違和感が無いでもなかったが、
 話は勝手に進んでいく。
 やって来たタクシーに乗り込んだ。

 峠道を軽快に進んでいく。
 やがて、 何も無い場所で ゆっくりとタクシーが止まった。
 地元の人らしい運転手さんが、
 待っているから、 徒歩で 林の中を進むようにと指差した。

 半信半疑ながら、 車を降りて しばらく雑木林の中を歩いて行くと、
 見晴らしの良いところに出た。
 木々に囲まれて、 ぽっかりと空き地になった場所だ。
 他には何もない。
 家族四人の他に、 人も居ない。
 教えてもらわなければ、 絶対に行かなかっただろう。

 前方の林が途切れ、
 目の前には 見渡すかぎりに 灰色の何も無い空間が広がっている。
 いさ子は、 顔を上げ、 ゆっくりと 視線を空の真中まで上げていった。


     *     *     *


「おい、 富士山が無いぞ。 どこだよ」
 すっとんきょうな男子の声に、
 車窓に群がっていた生徒たちが 笑った。
 列車の中には、 修学旅行のワクワク感が いっぱいに詰まっていた。

「富士山だぞー」
 と言う教師の声に反応して、 すでに 大騒ぎになっている。
「ええーっ、 私にも見えない。 どこどこ?」
 困ったような女子の声も聞こえる。

 いさ子も、 素知らぬ顔をしながら、 内心焦っていた。
 もう、 富士山なんか見あきたもんね、 という風情で、
 さりげなさを装い、 窓の外を見たが、 富士山が無い。
 静かな風景と、 ただただ広い空が見えるばかりだ。
 富士山は どこに行った。



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コメント
2251:国道四号バイパス小山から古河へ by miss.key on 2014/07/05 at 08:01:32 (コメント編集)

 こんにちは。
 茨城県西部、国道四号バイパスを小山市から古河市に向けて晴れた日に走ると、富士山が真正面にどーーんと鎮座します。遠くに在る筈なのに何故かものすごく大きく近く見えたりします。不思議です。更に南に下ると、横の方に隠れがちになりますが、時折見えても、むしろ近づいた筈なのに遠くに感じます。全く不思議です。

2252:Re: 国道四号バイパス小山から古河へ by しのぶもじずり on 2014/07/05 at 12:06:58 (コメント編集)

miss.key 様 こんにちは。
それそれ、それです。
茨城県にも、富士山不思議ポイントがありましたか。
あれは何故なのでしょうね。
うれしいコメントをありがとうございます。

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