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馬十の辻に風が吹く 第九章―4

 表向きは、
 不幸な手違いにより、 石動原邸で 何人かの死人が出た、 というだけになっている。
 まさか、 帝、東宮、葦若、ついでに佐々姫の 暗殺計画だったと知っているのは、
 ほんのわずかである。

「大丈夫です。 しっかり者の叔母が居ますから」
 先の右大臣一家を襲ったのは、 ほかならぬ多万記だった。
 斗平野は 真央土馬の名産地である。
 先の右大臣が、 熱密から軍馬を入れようとしていたのを知り、
 阻止を図っての犯行だった。

 先の右大臣が、 自分の領地のことを考えに入れていないはずが無かったが、
 多万記には 分からなかったのだろう。
 「真央土馬を、 斗平野を潰す気か」と、 一切の説明に耳をかさず、
 短慮に走った。
 無計画な暴挙が露見しなかったことが、 多万記をつけあがらせた。
 朝廷に手を出すまでに……。
 唆したのは、 無論、太保以である。
 使い勝手の良い駒にされただけだが、 死んでしまった今も 気付いていないだろう。
 緻密な はかりごとは 太保以、
 大雑把な騒動は 多万記の仕業であることは、 容易に察しが付く。

 先の右大臣の意を受けて、
 代わりに、馬の品種改良を指揮してきたのが、 叔母の上枝(ほつえ)だった。
 予備の馬車馬という名目で買い入れた 雌の熱密馬から、 すでに仔馬が生れている。
「どうしようもなく考えの足りない叔父でしたが、 一つだけ、 良いことをしてくれました」
 真顔で付けたした葦若の言葉に、 真咲は首をひねった。
 そんな事を言われても、 何の事だか見当もつかない。
 悪事を企むような人間でも、
 良いことの一つくらい してもおかしくはないだろうと思うだけだ。

「帝にお目通りを願って、 話を進めて頂くことにします」
「そうですか。 では、 わたしはこれで」
 これ以上、 意味不明な独りごとに付き合う義理もないだろう。
 真咲は、 やっとのことで逃げだした。

「坊の宮は 母君の故郷に引っこまれるようです」
 葦若の声だけが、 追いかけた。
 そんな事なら、 真咲はとうに知っていた。
 しかし、 葦若が何を言いたいのかだけは 分からないままに、
 その場を後にした。

「競争相手が、 目の前から消えました。
 こう見えても 泳ぎだって負けていません。
 東の庭の池にだって潜れます。 へのかっぱです」
 さらに 葦若の声が追いかけたが、 真咲に追いつくことはなかった。

 眼鏡をかけていなかったことも、 すっかり忘れていた。



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