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馬十の辻に風が吹く 第九章―3

「待ってくれ。 その他人事(ひとごと)な言い方は、 つれないではないか」
「他人事ですから」
「前に言いましたよね。
 妻にするなら、 命の恩人に決めていると」
「ですから、 砂々姫様とお幸せに!」
「私を、 じゃじゃ姫に押し付ける気ですか。 酷い」
「酷いのは誰ですか。 盃事を済ませて間もないというのに」
「だあって、 あれはあれだし」

 あまりの言い草に カッとした真咲は、 今度こそ殴ってやろうとして振り返った。
 殴るには近すぎるところに、 葦若の顔があった。
「うっ、 それが、婚礼を終えたばかりの人が言う事ですか!」
 仕方がないので、 怒鳴った。

「婚礼?  誰が?  誰と?」
「宰相様と砂々姫様が祝い事をなさったのは、 つい先日じゃないですか。
 この薄情者!」
「軍馬の取引が上手くまとまったのだから、 祝いくらいしたいではないか。
 桜子皇女と幸真千皇子が ご無事だということは、
 陛下から こっそりと教えてもらってはいましたが、
 世間的には まだ行方不明。
 宮中で祝うのは はばかった方が良いだろう、 という判断から、我が屋敷で行ったのです。
 何もやましいことは…… あっ、 やきもちですか?」
「や、や、や、やきもちって何ですか、 それこそ、 意味が分かりません」
 婚礼ではなかったのか という驚きを、 真咲は かろうじて飲み込んだ。

 世間の噂はともかく、 真神門の当主である背衛は 知っていたはずだ。
 きっと、 姉の花澄も知っていたに違いない。
 噂を鵜呑みにして、 情報を確かめなかった自分の落ち度だ。
 誰を恨む訳にもいかないが、 何だか悔しい。

 葦若は 少し困った顔で、 小首を傾けた。
「分かりやすく話しているつもりなのですが、 通じませんか。
 では、 今回 水面下で起きた騒動の始末が落ち着いたら、
 改めて、 もっと分かりやすくお話ししましょう」
「あっ、 そうですよ。 呑気な事を言っている場合ではありません。
 斗平野のご領地を仕切っていた多万記様が、 自業自得とはいえ亡くなったのですから、
 宰相様も大変でしょうに」

 石動原邸の離れ家で死んでいたのは、
 多万記と、 斗平野から付き従ってきた その腹心の家来たちだった。
 何をどう間違えたのか、
 自分たちが用意し、 美穂積皇子からと偽って送り届けたはずの毒酒を飲み、
 ことごとく死体となり果てた。
 離れ家には、
 祝い飾りが外され、 変哲もない酒樽に姿を変えた悪事の証拠が 転がっていたのだ。
 前祝いのつもりだったのだろう。
 詳しい経緯については、 未だ定かにはなっていない。
 知っているとすれば、 真神門一族の誰かだが、
 おそらくは、 特定の人間の故意によるものというより、
 呪の仕業 と考えるべきかもしれない。



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