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馬十の辻に風が吹く 第九章―1

 馬十の辻から南に少し。
 さらに、 わき道に逸れれば、 茂った藪に覆われて、 思いもよらぬ どん詰まり。
 四年前の惨劇を、 すでに 草木と時の流れが覆い隠した場所に、 真咲は立っていた。

 ゆっくりと見まわした視線の先を、
 白い蝶が ひらひらと飛び、 一本の野草にとまった。
 蝶が羽を休めたのは、 あの日、 少年だった葦若が倒れていた辺りだ。
 過去の悲しみを隠すように、 ぎっしりと草が生い茂っていた。

 やがて、 白い蝶が飛び立つと、
 それを待っていたかのように、 真咲は 懐から煌びやかな刀子(とうす)を取りだした。
 精いっぱいの何気なさを装い、 ぽんと放り出す。

「痛い!」
 刀子が落ちた草の中から、 非難を込めた声がした。

 草叢が ざわざわと揺らぎ、 むくりと身を起こして登場した人物がいた。
 回りの草を掻きまわし、 自分に攻撃を加えたものを手探りで探していたが、
 やがて 探り当てた刀子をつかみ、 うれしそうな声を上げる。
「こんな所に 私の刀子が!  ん?  時を越えて 降ってきたのか」
 そんなわけは無い。

 座り込んだ姿勢のまま、 呑気に刀子を眺めているのが 葦若だと知ると、
 真咲は 舌打ちしそうになった。
 そのせいで 身を隠すことを忘れた。
 振り向いた葦若と まともに目が合ってしまったのは、 大失態だ。

 仕方なく開き直って、 真咲は丁寧にお辞儀をした。
「この度は おめでとうございます。 ……そして、 御愁傷さまでした」
 ややこしい挨拶になる。
 挨拶を受けて、 葦若は少し小首を傾げ、
 得心したのか ニッコリと微笑んだ。

「やあ、 真咲先生だ。 ありがとう。
 内裏から消えたと思っていたら、 こんなところを お散歩していたのですね」
 こんなのは、 あんまりだ。
 真咲は泣きたくなった。
 役目だとはいえ、 何人もが死んだ。
 傷ついた思いを振り払おうとして この場所に来たのに、 さらに辛くなった。
 この場所を選んだのは、 初恋の思い出を葬るつもりでもあったのに、
 まるで台無しだ。
 何故、 葦若がここに居るのだ。

「この手で 仇を討てなかったことを、 詫びに来たのです」
 まるで、 真咲の疑問が聞こえたかのように、 葦若は ぽつりと言った。
 心持ちうつむいた顔に、 かすかな苦渋を浮かべ、 淡々と続ける。
「四年間、 そのことばかりを考えてきました。
 無害な人間を装いながら、 やっと突き止めたのです。
 まさか あの人だとは 思いもよりませんでした。
 目の前で、 恨み事を言い、 糾弾し、 この手で討ち取りたかったのです。
 それなのに、 あっさりと死なれてしまいました」

 今となってみれば、 右大臣一家惨殺事件は、
 奸智(かんち)に長(た)けていた訳でもなく、 用意周到でもなかった。
 当時、 帝の後継問題で 朝廷が揺れ動いていた事が、
 犯人にとって好都合に働いたのだ。
 そうでなかったら、 すぐにでも分かっていた事だろう。

「まさか 馬が原因だったとは。
 どうしたら、 父や兄たちが それほど考えの足りない人間だと思う事が出来たのか、
 それが不思議だ」
「愚かな人ほど、 他人を 己(おのれ)の尺度でしか量れないものなのでしょう」

 他人をケチ呼ばわりする人間が、 実は 一番のケチだったりする。
 バカとののしる人間こそが バカなんだと、 子どもだって知っているのに、
 おとなが、 しばしば忘れる。



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コメント
2219: by LandM on 2014/06/18 at 22:17:56

・・・なるほど。
名言ですね。
所詮、他人も自分の尺度でしか測れない。
それはごもっともですね。
自分の尺度を考える必要はありますね。。。

2220:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2014/06/19 at 10:51:20 (コメント編集)

だから、批評は難しいです。
批評してさらけ出されるのは、結局、批評した人自身。
ある意味、創作よりも、覚悟が必要な気がします。
逆に考えれば、何かを批評することで、自分の尺度が見えてきたり……。
なあんてね。

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