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馬十の辻に風が吹く 第八章―6

「まさか」
「はい、 御無事です。
 私に、 あなたを『止めよ』 とお命じになられ。
 これを」
 真咲が掲げた左手から、 細い皮帯が垂れた。
 鋼玉(こうぎょく)をはめた 鋼(はがね)飾りが、 びっしりと打ちこんである、
 親王にのみ許された 飾り帯だ。


 あの日、 笑い転げる女官たちから身を隠し、 真咲も後を追った。

 馬車ならば、 通常は馬十の辻を南に進む。
 広く、 勾配の少ない道だ。
 石動原の馬車が通るのを、 真咲も何度か見かけている。
 当然ながら 南に走った。
 しかし、 行けども行けども馬車が見当たらない。

 二人を守りきらなければ、
 真神門の娘として、 あまりに大きな失態だ。
 焦りのあまりに 足が止まった。
 切羽詰まった真咲は、 不意に思い出したのだ。
 馬十がした約束を。

 要所の辻で情報を集め、 いざという時には 都を護る砦になろうというのが、
 馬十が帝に返した約束だ。
 辻に戻れば、 一族の誰かが知っているはずだ。
 馬車が向かった方向と様子を。

 馬車は 何故か西に向かっていた。
 轍の跡をたどれば、 さらに山道に分け入る道を選んでいた。
 やっと追い付いたと思った時、 馬車が崖から転落する轟音を聞いた。

 だが、 幸真千と桜子は、
 道に覆いかぶさっていた木に ぶら下がっているところを発見された。
 落ちかかった馬車の屋根から 木の枝に飛び移り、 難を逃れたのだ。
 木登り指導が、 思わぬところで役に立っていた。
 二人が木に飛び移ったのを見届けた御者の機転で、 馬は切り離され、
 幸い、 御者共々なんとか無事だった。

 桜子と幸真千は、 真神門の元に庇護されている。
 誰が庇護しているのか、 本人たちは詳しく知らないが、
 真咲が傍に付いていることで満足らしい。

 花澄を経由して届いた 怪しい呼び出しの文に、 真咲は苦渋した。
 応じれば、 敵の正体に届く。
 しかし、 二人から離れるのは、 正しい判断だろうか。

「真咲、 行け!  ぼうりゃくを止めよ。 余のめいれいだ」
 真咲の逡巡(しゅんじゅん)に構わず、 幸真千が命じた。
 たった八歳でも、 幸真千は皇子だった。
「姉上は、 余が守る」
 幼くても男だった。

 幸真千は 細い皮帯をしゅるりと腰から抜きとって、 差し出した。
 受け取れば、 真咲は皇子の使者になる。
 同時に、 本来の役目である護衛の任から 離脱する事になる。
 迷いは一瞬。
 真咲は 皮帯に手を伸ばした。
 しっかりと手に取り、 左手にきりきりと巻き留めて、 立ち上がった。

 謀略を止める為に。



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