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馬十の辻に風が吹く 第八章―5


 残照が 荒れた屋敷を赤く染め始めていた。
 しかし、 真咲の頬が赤いのは、 光のせいばかりではない様子だった。
 恥ずかしそうに微笑んだが、
 悲しそうに見えるのはなぜだろう、 と太保以は訝(いぶか)しんだ。

「そろそろ 祝いの儀が始まる頃です。
 宰相も年貢の納め時だ。 あなたには手の届かない存在になる。
 そうだ、 明るい色の衣装を贈りましょう。
 私と一緒なら、 美しい夢を見せてあげられる」
 太保以は、 真咲の頬に そっと手を差し伸べた。

「ゆ……め……?」
「そう。 華やかな夢を」
 真咲は、 ちょっと考えるように 首を傾げた。
「宮中に上がるまでは、 たいそう華やかなものに憧れていましたけど……」
「まさか もう飽きたのか。 早いな」
 苦笑いする太保以に、 真咲は ぶんぶんと首を振った。
「飽きるなんてとんでもない。
 宮中にある物は どれもこれも素晴らしくて、
 人の手が あれほどのものを作った事に 感動しました。
 それでも、 小さな虫や 一輪の花も 負けてはいないと思えるようになりました」
「なるほど。 だが、 もっと美しいものを見せてやれる」
 夢見るような太保以の瞳の中で、 残照が揺らめいた。

「母の故郷には 大きな湖があってね。
 中央に浮かぶ小島には、 湖の神を祭る社(やしろ)がある。
 小島の根には 奇妙な水中洞窟があり、
 神事の折には、 領主の一族から選ばれた巫女が 供え物を沈めに潜るのだ。
 母は、 巫女を務めた事がある。
 話を聞いて、 こっそりと潜ってみたら、
 複雑な形の洞窟に届く光が、 季節や時間帯によって とりどりに変化し、
 それはそれは 幻想的な光景が楽しめるのだ。
 この世のものとは思えぬほどに美しいよ。
 連れて行ってあげよう。 きっと気に入る」

「河童は、 母君の大蔵様だったのですね」
「母は巫女だよ。 妖怪ではない」
 太保以がまとっていた雰囲気が、 すうっと変わっていった。

「運の良い女のようだから、 命だけでもと一瞬思ったが、
 小賢しいばかりで 賢くは無かったようだね。 残念だ。
 三人まとめて消えてくれていれば、 面倒が少なかったのに。
 本当に残念だ」
 ずりずりと後退りして 離れて行く真咲を、 冷ややかに眺めていた太保以が、
 燃えるような残照に染められてゆく。

「逃げられないよ」
 携えた剣を、 ためらいも無く抜き放つ。
 振りかぶった刹那、 真咲が動いた。

 袖口に隠れていた左手から 鋭い音を立てて伸びた紐状の物が、
 剣を絡め取る。
 剣は、 太保以の手から真咲の手に移った。

「それは……」
 武器を失った事よりも、
 それを攫(さら)った 長く細い物に太保以は驚愕した。



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コメント
2201: by インターネット出版 on 2014/06/04 at 20:57:36

はじめまして、朝ドラの赤毛のアンに影響されて、「想像の翼を広げて」というくだりに感動しています。とても素晴らしい作品だと思います。もっと、もっと、羽を広げてください。

2202:Re: インターネット出版様 by しのぶもじずり on 2014/06/05 at 10:55:48 (コメント編集)

いらっしゃいませ。
「花子とアン」ですね。私も見てます。
「あまちゃん」以来NHKの朝ドラが定番になりました。
村岡花子の生涯と「赤毛のアン」のコラボみたいですね。
実在の人物と創作物語の合体とは、面白い事をするなあと思います。
外国語に堪能なら、物語を翻訳するのも楽しそうだと思いました。
私は無理なので、せいぜい、想像の翼を広げたいものです。
コメントをありがとうございます。

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