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馬十の辻に風が吹く 第八章―4

 ひとけの無い廃墟を、
 言葉を交わしながら、 二人は 縦に並んで進んでいく。
 真咲は 遠慮がちな小声で。
 太保以は 普通の声で。

「そういえば、 幸真千が探していた斑猫は 見つかりましたか?」
 不意に気になる事を思い出したように、 太保以が振り向いた。
「たぶん、 尾黒が食べてしまったのだと思います」
「いや、 それは無いでしょう。 先日も内裏で見かけましたから」
 呆れたように笑われた。

「あの~う、 毒があるのは、 種類の違う斑猫らしいです」
 せっかく調べて確かめたのだから、 少し自慢してみた。
「あっ!」
 いきなり立ち止った太保以の背中に、 ぶつかってしまった。
「すいません。 なにか?  正体不明の差出人が現れましたか」
 太保以の背中越しに、
 赤くなった鼻を押さえながら、 真咲が きょろきょろと視線をめぐらしたが、
 庭に見えるのは、 人間の背丈を越すほどに生い茂った雑草の群ればかりだ。

「いや、 野良犬か何かのようだ。 気にしなくていい」
「こんなに荒れ放題では、 何が入り込んでも おかしくありませんよね。
 私たちみたいに。
 あらっ、 あんなところに曼陀羅華まで生えているわ。
 知っていますか。 薬草なんですよ。
 咳止め、 鎮痛、 鎮痙(ちんけい)の薬になるのです。
 でも量が多いと 昏倒したり、 逆に暴れまくったりするので、
 匙加減には注意が必要で、 毒草と言っても良い 危険な植物なのです。
 まるで、 桜子様を襲った犬のようになるらしいです。
 あら、 そうだわ。
 曼陀羅華で昏倒させれば、 荷物に紛れ込ませて、 内裏に持ち込めたかもしれませんね。
 内裏にいらっしゃる どなたかへの贈り物として」

「…… 良く知っていますね」
「調べたのです。
 桜子様は 野草がお好きなので、 色々と質問なさいますから。
 毒草には、 量や使い方次第で、 目覚ましい効能を発揮する薬草になる物があるようで、
 典薬寮には そんな毒草の資料が たくさんありました。
 櫟(いちい)も 樒(しきみ)も 毒があるのですね。
 鳥兜(とりかぶと)が 二輪草に似ていたり、
 梅蕙(ばいけい)草(そう)が 擬宝珠(ぎぼうし)に似ていたりしているのも知りました。
 先生をするのも大変です。
 太保以様がお二人に、 お行儀良くするようにと叱って下さったとか。
 好奇心が有り余っておいでですから、 おとなしくして頂くのは難しいようです。
 そういえば、
 大蔵卿は 御屋敷の裏庭を 山水の庭に改造なされたと、 植木屋から聞きました。
 桜子様は 残念に思われる事でしょう」

 太保以は ゆっくりと身体ごと振り向き、 真咲の顔をまじまじと見つめた。
「まるで、 二人が生きているかのように話すのだね」
 おもむろに手をのばし、 眼鏡を外してしまう。
 太保以は、 わずかに目を見張り、 にこりときれいに微笑んだ。
「このほうがずっと良い。
 せっかく可愛らしい顔を眼鏡で隠してしまうなんて、 もったいない。
 こんなあなたを見たら、
 女官たちも ふざけた噂でからかうなんて出来なかったはずだ。
 あなたは 葦若の宰相のように軽々しい男には似つかわしくない。
 噂になっただけでも腹立たしい」


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2199: by キョウ頭 on 2014/06/02 at 20:51:33

あら太保以様、もしかして、本気で口説いていませんか?w

2200:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2014/06/03 at 10:53:35 (コメント編集)

ちゃんと口説けていますでしょうか。それなら良かった♥
何しろ、口説かれたことがほどんどないので、よく分からんかったのです。
日本男子って、あからさまに口説くことが少ないように思います。
がんばれ!
がんばって、ネタを提供してくれ!

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