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馬十の辻に風が吹く 第八章―3

 そこは、 以前は 羽振りの良い貴族の持ち物だったが、
 ある事情から打ち捨てられて、 住む人も無く、
 すっかり寂れた様子になっている屋敷だった。

 元気いっぱいの住人が住んでいれば、 ボロ家でも活気があるものだが、
 いくら豪勢な作りでも 無人になると みるみるうちに建物はすさんでいく。
 ギシギシ鳴るくぐり戸を開けて、 真咲は門内に踏み込んだ。
 ゆっくりと見回しても、 人が居る気配は見えない。
 少し迷い、 袖口に隠れた左拳を ぎゅっと握りしめ、
 思い切って 建物の中に足を踏み入れた。

 風は無い。
 まとわりつく じめついた空気を振り払うように、 回廊を奥へと進んでいった。
 目指すべきは 奥の院なのだが、 よくある構造とは違っているらしく、
 どっちに行けばいいのか見当がつかない。
 勘に頼るしかなさそうだ。
 おっかなびっくり進む眼鏡娘は、 全然カッコよく無い。
 十分に自覚していた。

 しばらくして、 どちらに進もうか迷って 立ち止れば、
 床板がきしむ音が 臆病な静寂を破った。
 立ち止った。
 自分が出した音ではない。
 不意に曲がり角から現れた人影が 行く手に立ち塞がった。

「文の差出人は、 あなたでしたか」
 静かに問いかけてきた太保以に、
 目を見開いた真咲は 首を横に振って応えた。
「差出人の分からない文に呼び出されて、 ここに来ました」
「もしかして、
 桜子と幸真千の消息が知りたければ、 誰にも言わずに、 一人で来い。
 他に漏らした場合は、 二度と接触はしない。
 という文面ですか」
 今度は 急いで首を縦に振った。
「同じです」
「本当に、 一人で?」
 確認するような問いかけに、 真咲がきっぱり頷くと、 太保以はかすかに微笑んだ。
「勇敢ですね。 私も同じ内容のものを受け取っています。
 私となら、 指示に逆らった事にはならない。 一緒に行きましょう。
 床が傷んでいる個所がある。 気を付けて」

 先に立って ゆっくりと進む太保以の背中に、 問いを投げかけた。
「送り主に 心当たりはありますか?」
「いいえ」
 振り向きもせず、 即座に答えが返った。
「あなたこそ、 気になる事は無いのですか? 
 次々と振りかかった災いの時、 二人の一番身近にいたはずです。
 不審に感じた事は?」

 さりげなく続けられた言葉に、 真咲はおどおどと返す。
「木五倍子様と紅椿様の厄が降りかかった、 と占い師が言ったと聞いていますから、
 そうなんじゃないのですか」
「ああ、 こうなったのも、 最後は阿房の占いのせいとも言えますね。
 あれは夜逃げをしたそうです。 見つけ出して死刑だ」
 小さな舌打ちが聞こえた。



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