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馬十の辻に風が吹く 第七章―4


 驚いたのは多万記である。
 すっかり当主気分で 美穂積皇子を邸に招いて 歓待していた時だったにも関わらず、
 その知らせを聞いて、 思わず口を衝いて出たのは罵り声だった。

 美穂積皇子は 眉をひそめた。
「陛下が この度の事故をお許しになったのだろう」

「失礼いたしました。
 あまりに驚いてしまい、 つい下品な事を。
 美穂積皇子様とは違い、 おまけのようなお二人でしたから、
 陛下も ご寛容なご処置で済まされるおつもりなのでしょうか」
「国の大事に関わる事と私事の感情なら、 国の大事を優先なさるということだろう。
 この美穂積も あの二人となんら変わらない。
 特に 我が産みの母は何ほどの身分にもない。
 いざとなったら、 国の大事の為ならば 切って捨てられよう」

 帝のきまぐれで うっかり出来てしまった皇子、 という噂を多万記は思い出した。
「そんな事にはならぬよう、 この多万記が 必ずやお力になりましょう」
 自らの胸を 握りこぶしでドンと叩いて見せた多万記に、
 美穂積皇子は薄く笑った。
「ふふっ、 それは頼もしい」


 葦若が出仕するという知らせが 朝廷のここかしこに行き渡った日の午後、
 内裏に 坊の宮こと太保以が訪ねてきた。
 帝に謁見を申し入れたのだ。

 内裏は ひっそりと静まり返っていた。
 華やかに賑わっていた面影(おもかげ)はなく、
 大勢居るはずの女官たちは いったい何処に身をひそめているのか と思えるほど、
 人の動きも見えない。

「この度は 東宮坊からの使いとしてではなく、
 桜子皇女と幸真千皇子の従兄弟として、 陛下に申し上げたき議がございます」
 帝の前に出た太保以は、 いつもよりも さらに凛々しく見えた。
「おそれながら、 陛下は 我が子よりも馬が大事でございますか」
 太保以の言葉に、
 ただでさえ暗く沈んでいた白桐殿の空気が凍りついた。
 そこまで言われても、 帝の口は開かない。

「今一度申し上げます。
 桜子と幸真千の生死よりも、
 色仕掛けで馬を買い叩く事が それほどの大事でございましょうか。
 陛下もご存じのように、 私は兄たちと姉を 流行病(はやりやまい)で亡くしております。
 一人残った姉も 他家に嫁ぎ、 親しく交わる兄弟が居ません。
 桜子皇女と幸真千皇子を 実の弟妹(ていまい)のように愛しく思っておりました。
 その二人を あのような不手際で失い、 悔しくてなりません」
 瞳が静かに燃えていた。 
 真正面から帝を見据えていても、 緊張は隠せない。



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