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馬十の辻に風が吹く 第七章―2

「馬車とは 思いのほか危険な乗り物のようです。
 面白がって乗り回して良いものではなさそうです。
 あのようなものに 皇子様と皇女様をお乗せするなど、 もってのほかでございました。
 今後一切、 石動原家では 馬車を禁じる事に致しましょう。
 しかも 葦若は属国の野蛮人を御者に使っていたなど 許し難い。
 おふた方をこのような目にあわせた御者を、 この手で仕留めてやりたかった」

 帝の表情は変わらなかった。
 ただ、 それまで動かなかった視線が 多万記を通り過ぎ、
 後ろに控えた男が手にする文箱に留まる。
 大事そうに文箱を捧げ持って控えていたのは、 いつも葦若に付き従っていた兄多遅だ。
 帝の視線を追った蔵人(くろうど)が、 「その文箱は?」と問えば、
 思い出したという風に 多万記が鷹揚に答えた。

「詫状(わびじょう)でござる。
 不手際の詫びと、 家の存続をお願いするよう私が書かせました」
 帝の視線を受けて、 蔵人が 文箱を帝の手元に運んだ。
 緋色の紐が 「子持ち酢漿草(かたばみ)」の結び目を作って 留められている。
 石動原家当主だけが知る結び方である。
 紐に乱れはない。
 由緒ある家々には、 代々伝わる複雑で独自な結び方があり、
 知らない人間が こっそりと解くことができないようになっている。

 帝は一瞥しただけで多万記に視線を戻し、 初めて口を開いた。
「他に申したき事があれば 聞こう」

 穏やかな声に安心した多万記は、
 こころもち伏せていた顔を上げ、 いつもの調子を取り戻して話し出した。
「つらつら思い起こせば、
 四年前に 兄の一家が不運に見舞われた時にも 熱密の使者が来ておりました。
 我が真央土国に不幸を運ぶ使者としか思えませぬ。
 関わらぬ方がよろしい相手ではございますまいか」

 尚も言いつのろうとする多万記を遮る声が 入口から上がり、
 その場の注意が 一斉に声の主に集まった。
「ひどい言いがかりだわ。 馬を売りに来ただけよ。
 不幸を売った覚えはないわね」
「姫様。 お待ちを」
 乱入したのは砂々姫。
 慌てて止めようとするのは 侮れない面構えの男。
 しかし 面構えだけでは止められない。
 砂々姫は 多万記に詰め寄って、 一歩も引かない構えだ。

「だいたい迷惑しているのはこっちなのよ。
 儲かると思って 張り切って来て見れば、
 せっかく順調に話し合いが付きそうだっていう矢先に 騒動が起きたりして、
 このまま取引が中止にでもなったら大損だわ」
「ひ、 姫様。 そこまでぶっちゃけなくても……。
 お、落ち着いてください」
 必死に止めようとする面構え家臣。
「落ち着いていられるものですか。
 四年前の事件だって 熱密は何の関係も無いのに、 大きな商売を逃がしたのよ」

「いやはや、 蛮族にも困ったものだ。
 このように美しい姫を 商売に使うとは。
 我が国ならば、 ただ美しく着飾って 面白おかしく過ごせますぞ。
 美しい乙女は おとなしく可愛らしくしていれば良いのです」
 初めて砂々姫を間近に見た多万記の眉が、 忌々しげにゆがんだ。



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