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馬十の辻に風が吹く 第七章―1


 桜子皇女と幸真千皇子を乗せ、 斗平野に向かった馬車が 谷底に転落。
 上から見た限りでは 車体は大破、 馬も人も 動くものの気配が無い。
 護衛が谷底へ降りる道を探して 鋭意探索中。

 という知らせが朝廷に飛び込んできたのは、
 すでに日も暮れようかという頃だった。

 救出の為に兵が送られたが、 日は またたく間に落ちていく。
 現場から情報がもたらされるにつけ、 事態は ますます絶望的に思えた。
 夜の闇に阻まれ、 捜索は遅々としてはかどらず、
 水源近くに雨が降ったのか 馬車が落ちた谷川は増水しており、
 明け方になって やっと全貌が見えてみれば、
 残っていたのは 岩に引っかかった車体の残骸だけ ということが判明したのだった。

 普段は役に立たないおまけでも、
 皇女と皇子が行方不明、 ましてや生死も不明となれば 話は別だ。
 内裏はもちろんのこと、 都中が騒然となった。
 木五倍子と紅椿は 真っ青になりながらも 気丈に経緯を見守ったが、
 甘蔓の命婦が倒れた。
 床に伏せって 正気を無くしたように うなされ続け、
 ついには 「呪い」とか 「化け猫」とか 意味不明の言葉を叫び、
 内裏の空気を いっそう混乱に陥れた。

 引き続き行われた 大掛かりな捜索にもかかわらず、
 水が引いた谷川の下流からさえ 何一つ見つける事が出来なかった。


 事件から三日が過ぎた日、
 石動原多万記が 石動原家名代として帝に拝謁を願い出た。
「この度は 皇子様皇女様の護衛を命じられながら、
 痛ましい事故からおふた方を守りきることができなかった事、
 まことに以って 責任を深く痛感いたしている次第にございます」
 多万記は帝の前に出て、 深々と頭を下げた。
 帝に反応は無い。

「葦若は 若輩で 思慮も浅い未熟者ではございますが、
 仮にも石動原家の当主、 この度の責任は すべて葦若にございますれば、
 いかような処分にも従わせる所存にございます。
 首を刎(は)ねるなり、 火あぶりにするなり、
 お気が済むように ご処分下されたく、 覚悟を決めております。
 さすがに 本人も責任を痛感しての事でございましょう。
 すでに郊外の別邸にこもり、 自ら謹慎しております。
 大変な不祥事ではございますが、
 ご存じのように 我が石動原家は 由緒ある朴家に連なっております。
 どうか 家の存続をお許しいただけますよう、 お願い申し上げます」

 帝は頷くでもなく、 かといって 怒りを顕わにする訳でもなく、
 無表情で聞いているだけだ。
 多万記が 直接帝に拝謁したのは初めての事である。
 目覚ましい事の何一つ無い方だ という評判は知っていたが、
 この反応の無さは 予想外だった。
 息子と娘を突然亡くして 気力が萎えているとしか思えない。
 怒りを覚悟していただけに、 張りつめていたものが少し解けた。
 ゆっくりと呼吸を整え、 頭を少しだけ上げてみたが、 帝は無言だ。

 多万記は 声が掛かるのを待った。

 静寂の時が しばし過ぎる。

 たまりかねて口を開いたのは 多万記だった。



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コメント
2169: by LandM on 2014/05/15 at 20:00:00

帝だからこそだんまりなのか。無表情なのか。
あるいは過去がそうさせているんでしょうかねえ。帝も大変な仕事だと思います。

2170:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2014/05/16 at 17:17:57 (コメント編集)

沈香も焚かず屁もひらず とはいえ、一応帝ですからね。
技を知っています。
余計なことを言わずに、様子見というところでしょうか。

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