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馬十の辻に風が吹く 第六章―7


「あら、 止まってしまいましたね。 どうしたのかしら」
「きゅうけいじゃないか」
 のんきな事を言っている場合じゃない事に、 すぐ気が付いた。
 進まないのではなく 進めないのだ。

「冗談じゃないぜ」
 御者の怒りがこもった声に 前方を見れば、 急な下り坂があった。
 馬車は かろうじて寸前で止まっていたのだ。

 勾配の多い土地に 馬車は向かない。
 特に 下り坂は難点だ。
 傾斜や長さにもよるが、
 車体に勢いが付いて 勝手に転がり出したら 止めるすべがない。
 勢い余って馬に衝突しかねない。
 そこに在るのは 十分に危険な下り坂だった。
 速度を上げていたら、 気が付かないで転げ落ちていたかもしれない。
 しかし戻る事も出来なかった。

 馬車は 前に進むように出来ている。
 後ろ向きには進めない。
 その上、 道幅がそこに来て 急に狭くなっているのだ。
 方向を変えるだけの余裕が無い。
 ばかりか……。
「このまんまじゃ どうにもならねえ。
 降りてもらった方が良いんだが、 これじゃあな」
 牛車は後ろから乗り降りするが、 馬車は横から乗り降りするように作られている。
 その余裕さえ無かった。

 片側は 切り立った谷が口をあけている。
 反対側は 崖といっていいほどの急斜面が塞いでいる。
 途中にしがみついて生えている木が、 道に覆いかぶさるように枝をのばしているせいで、
 坂の下からの見通しが利かなくなっていたのだ。
 馬車を止められたのは幸運だったとしか言いようがないが、
 だからと言って 降りるのも困難に思えた。

 乗っているのが皇女と皇子では、 当然ながら無茶をするわけにもいかない。
 二人の安全を第一に考えなくてはどうしようもない。
 にっちもさっちもいかない とはこの事だった。

「くそっ、 なにが道案内だ。
 道は知っていても、 馬車の事を知らなすぎるぜ」
 御者の悪態にこたえるかのように、
 頭上からパラパラと小石が降ってきて、 馬を怯えさせた。
 蒼くなって上を見た御者の口から、
 「え、 えーっ」 という野太い悲鳴が上がった。

 崖の上から、 次々と石が落ちてきていた。
 その上、
 大きな岩が、 今にも落ちかからんばかりに グラグラと揺れていた。


          第七章につづく



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コメント
2166: by LandM on 2014/05/12 at 18:40:42

・・・ふむ。
そういえば、馬車は後ろを進むようにはできないですね。考えてみればそうですね。
後方に移動するのは難しいでしょうねえ。

2168:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2014/05/12 at 19:11:06 (コメント編集)

日本では、馬車が全く発達しませんでした。
坂道ばかりが多く、狭い土地には不向きなんだと思います。
アメリカの西部劇みたいに、平坦な土地を爆走するのが似合ってます。

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