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馬十の辻に風が吹く 第六章-6


 多万記の眉間のしわが じわじわと深くなってゆくが、
 真咲はそれどころではない。
 多万記の唇が 何か言いたそうにひくりと動いたが、 言葉は出てこなかった。
 それはそうだ。 何も言えるはずが無い。

 『適当にごまかして 煙に巻いてください。
 むしろ はっきりしたことは 何も言わないでください』
 と 葦若に指示された通り、 はっきりした事は 何一つ露わしていないのだ。
 言いたい事が見つからないまま 睨んでくる多万記の顔が 怖くて動けない。

 その間に、
 つきそって行く予定だった女官と 真咲を置いてきぼりにして、
 馬車は動き出してしまった。

 さすがに、 女官たちも驚いた様子で、 慌てて制止しようとしたものの、
 一行は 止まる様子もなく進んでいく。
 都の中心部だから、 馬を急がせているわけではないが、
 牛車で後を追わなくては とか、
 とりあえず事態を報せなくては とか、
 ワイワイガヤガヤやっている間も、 どんどん進んでいった馬車は、
 やがて 角を曲がって見えなくなった。

 みんなの視線が馬車を見送っている隙に、
 真咲は 素早く目立たない脇道に走り込んだ。
 走りながら眼鏡を外し、
 一族自慢の最新式変装を かなぐり捨てる。
 何としてでも追いかけなくてはならない。

 石動原家の馬車が国元に帰る道は、 ようく知っている。
 徒歩や騎馬なら 西に行く道が近いが、
 馬車であれば 遠回りでも南に向かうはずだ。
 追いついて見せる。
 真咲は、 馬十の辻を勢いよく 南に向かって駆け抜けた。



 桜子と幸真千を乗せた馬車は、 前後を騎馬兵に守られて順調に都を出た。
 馬十の辻に差し掛かる。

 先導の騎馬は 西に進路を変えた。

 窓からの景色を一心に眺めていた幸真千が、 ふと 気が付いたように呟いた。
「なんか、 わすれものをした気がする」
「そうね。 真咲先生を置いてきてしまったわ。 どうしましょう」
 桜子が答えたが、 口調は困っているようには全然聞こえない。
「もどってもらうか」
「後で送ってもらえばいいのではないかしら。
 先生なら、 呼ばなくても来てくれそうな気もします」
「そうだな」

 急ぐでもなく馬車は進み、 今度は南に向かった。
 だらだらと緩い上り坂が 延々と続く。
 勾配がきつくなってきた所で、
 後ろに付いていた騎馬が追いついて 一騎が並びかけ、
 御者に指示を出した。

「おい、 この先に 山賊や追剥が出る場所がある。
 我らが先に行って安全を確かめるから、 速度を上げてついて来い。
 のんびり進んでいると危険だ」
「おいおい、 いい加減な道案内だなあ。 安全な道を知らないのかい」
「うるさい。 おまえは黙って言うとおりにすれば良い」
 文句を言う御者を叱りつけて、 騎馬兵は さっさと走り去っていく。

 だが、 馬車は速度を変えなかった。
 むしろ遅くなった気がするほどだ。
 横柄な道案内に へそを曲げたのかもしれないと思って、
 桜子と幸真千の二人は、くすくす笑った。

 そうこうしているうちに、
 騎馬兵たちは、 あっという間に見えなくなってしまった。
 御者は それでも慌てる風も無く、 ゆるゆると進み、
 突然 立ち往生したように止まった。



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コメント
2159: by LandM on 2014/05/09 at 19:49:02

追いはぎや山賊は世の常ですからね。
今でもアフリカ圏内や南アジアでも出ますからねえ。。。世の常は変わらないですね。そういう世界観は好きですね。

2160:Re:LandM様 by しのぶもじずり on 2014/05/10 at 18:13:52 (コメント編集)

浜の真砂は尽きるとも。世に盗人の種は尽きまじ。
ですね。

登場人物がウソをつかないという保証もないわけで……
はて、続きはどうなりますことやら♪

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