RSS

馬十の辻に風が吹く 第六章-5


 やんごとない一家が出入りする時のみ開かれる 松柏門の前に、
 てはず通りに馬車が来た。
 熱密馬が引く 宰相のものだ。

 真咲は 一足先に出て、 様子を確かめた。
 御者はいつもの男だ。
 石動原の騎馬兵が六騎 護衛に就くようだ。
 その内の一人が 打ち合わせだろうか、
 馬から降り、 従者を従えた男と 声をひそめるように話をしていた。
 ざっと見たところ、 馬はどれも元気そうだ。
 馬車にも異常は見当たらない。
 それなのに 嫌な胸騒ぎがぬぐえない。
 真咲の神経が過敏になっているのかもしれない。

 騎馬兵の一人と話し込んでいた男に 御者が声を掛けた。
「俺は熱密の出なんで、 都を出ると 道が分からないんだけど」
 不安をにじませる御者に、 男はにべもなく答える。
「余計な心配はしなくていい。 黙って護衛の指示に従えば良い」
 石動原の人間らしいが、
 いかにも大家を仕切っている様子の 堂々とした態度といい、
 きっぱりした物言いといい、 葦若とはまるで正反対だ。
 目ざとく眼鏡の真咲に気づいて、 近寄ってきた。

「皇女様の教育係をしている 真咲殿ですな」
 言いながら 値踏みするように、 じろりと視線を這わせる。
「失礼ですが どちらさまでしょう」
「いや失敬。 石動原多万記でござる」
 ごまかさなくてはならない叔父さんだ。

「真咲でございます」
 戸惑いと緊張で 無表情になった真咲は、 簡単に名乗った。
 余計な事は 何も言いたくない。 墓穴を掘るのは避けたい。
 そもそも 何を言ったらいいのか全く判らない。
 それきり黙った。

 待つまでも無く、 門前が騒がしくなり、
 桜子と幸真千が 女官たちに伴われて出てきた。
「わっ、 宰相の揺れない馬車だ」
 喜び勇んで乗り込む二人をよそに、 見送りに出た内侍が 多万記に話しかけた。
「慌ただしい成行きになりましたので、 お二人のお身の周りの品々に 多少心配がございます。
 不足するようでしたら 知らせてください」
「心配は無用でござる。 斗平野には 早馬を立てて指示をしてある。
 お身の周りの品はもちろん、
 お世話をする侍女も 学識豊かな教育係も、 用意万端整えてお待ち致しております」

 多万記の返事に 真咲はギョッとなった。
「教育係まで……」
 多万記は鷹揚に頷き、 ゆっくりと余裕を見せて真咲に振り向いた。
「ちょ、ちょっと待って、 では、 私は?」
 焦った様子の真咲に向かって 意味ありげな笑い顔を見せ、
 多万記は 爆弾発言をかましてくれた。
「さよう。 真咲殿には 花嫁修業をしていただかなくては」

 驚いたのは 真咲だけではなかった。
 突然訪れた静寂の後、 女官たちが一斉に吹きだした。
「ぷっ、 ま、まさか 多万記殿は本気になさったのですか。
 いやだあ、 冗談ですってばあ」
「あれを本気になさる方が居るなんて、 ぶはっ、嘘でしょ」
「葦若の宰相と真咲先生がなんて、
 そんなことがあるわけがありませんわ。 おっほっほっほっほっ」
 ついにばれた。

 多万記のこめかみに 怒りが走る。
 女官たち、 笑い転げる。



戻る★★★次へ


にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
2155: by キョウ頭 on 2014/05/07 at 21:56:32

あっ
ばれちゃったw

2157:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2014/05/08 at 18:17:38 (コメント編集)

はい、ばれました。
でも、真咲的には困ることは特にないわけで、それどころではない。
そういうところでしょうか。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア