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馬十の辻に風が吹く 第六章―1


 九練坂に住む 阿房(あぼう)という占い師が、 良く当たる とたいそうな評判を呼んでいる。
 そんな噂を 内裏に運んだ者が居た。

 葦若の足が遠ざかったせいで、 様々な催しが立ち消えになってしまった内裏を
 その話題が席巻(せっけん)するのに さほど時間はかからなかった。

 たまたま 休みを取っていた下位の女官が しばらくぶりに出仕したのだが、
 阿房に占ってもらっていた事もあり、 ますます過熱する事になった。
 実際に ものすごく当たると件(くだん)の女官が太鼓判を押したものだから、
 ついには 内裏に召し出そうというところまで 話は一気呵成に進んだのだった。
 こういう話がまとまるのは 速い。
 あっという間に 段取りが整って、 阿房が来た。

 評判の占い師は、 おおかたの想像を裏切って まだ若い男だった。
「お召しにあずかりました 阿房でございます。
 占術を極めておりますれば、 ご所望とあらば喜んで占います。
 が、しかし、 占いは見せものではございませぬゆえ、 満座の中では致しかねます。
 他聞を憚(はばか)る結果が出る事もままございます。
 お一人ずつ 個別に占うことになりますが、 それでよろしゅうございましょうか」
 貧相な見た目にも関わらず、 堂々とした言いようだ。
 それだけで 頼りになりそうな気がしてくる と女官たちはささやき合った。
 提案は即座に受け入れられた。

「もうひとつ、
 占うからには 私も心血を注いで、 お一人お一人のご相談を受けます。
 それには 一日に大勢様を占うことは無理でございます。
 五名様に限らせていただきたく お願い申し上げます」
 順番は おのずと決まってくる。
 身分の高くない女官たちは たちまちがっかりした。
 結局は 皇后が、 占って欲しい事が無いからと断った他は、
 二人の妃と 高位の女官三人が 名乗りを上げることになった。

「木五倍子様は たいへんに運気が強くていらっしゃいます。
 たとえ国が一つ二つ滅びようとも、 ご自身には大きな障りにはならない。
 それほどの運気を持っていらっしゃる。 ただ……」
「ただ?  やはり問題は有るということですね」
「はい」

「なにかしら。 早く言いなさい。
 それを言わなくては 占いの意味が無いでしょ」
「木五倍子様に振りかかろうとする災いが、
 強い運気にはじかれて、 身近な方が身代わりになります。
 本来ならば 厄(やく)に入っている時期ですが、
 さしたる障りもなく、 ますます意気軒昂(いきけんこう)にお過ごしのことと推察いたします」

「代わりに災難に遭っている者が居る と言いたいのね。
 ……では、 尾黒が多くの女官たちに嫌われているらしいのも、
 しばし行方知れずになったのも わらわのせいなのかしら」
「失礼ながら 尾黒様とは?」
「可愛がっている猫たちの一匹です」

「………… 猫……。 いいえ、 もっと近しい方です。
 木五倍子様のお身の一部、 皇女様が 災難に見舞われた事がございませんでしょうか」
「あっ、 それはもう、 色々と……。
 あれが全部 わらわのせいなの?」
「遺憾ながら。
 獣に襲われたり、 火難に遭われたり、
 何やら 勢いよく走るものに関わる事件はございませんでしたでしょうか」

 木五倍子は さすがに顔色を変えた。
 日頃から母親らしい事はとんとしていないものの、
 自分のせいで 娘に災難が降りかかっていると言われれば 見過ごしにはできない。
 確かに血肉を分けた存在なのだ。
 桜子、 この母が 何としても守って見せる、 と突然決意してしまったのだった。
 思い込みの激しい人なのだ。

「どうすれば厄を払えるのですか。
 何でもする覚悟があります。 きっちり教えなさい」
「木五倍子様にとって 内裏の場所は、 現在凶運の位置に当たります。
 運気が変わる秋の終わりまで、 方違(かたたが)えをなさるのがよろしいかと」
 方違えとは、
 本来 出かける先が凶方位に当たる時、 一度吉方に向かって遠回りをすることである。
 この場合、 凶運を避けるために 幸運の地に移動するという意味らしい。

「山の奥だろうと 海の底だろうと、 何処にでも行きます。
 何処に行けばいいのかしら」
 さっそく立ち上がった木五倍子をなだめるように、 阿房は急いで続きを話し出した。
「いえ、 木五倍子様の厄は すでに桜子様に移ってしまっております。
 方違えをなさるなら 桜子様でございます」
「あら、そうなの。 でも大丈夫よ。 あの子なら山の奥でも海の底でも」
「…… そこまでは。
 しかし、 内裏からは しばらく離れられるのがよろしいでしょう。
 ううむ、 南へ、 そして西へ。
 南西の方角に 凶運を避ける土地がございます」



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コメント
2138: by LandM on 2014/04/30 at 00:06:42

ふうむ。
真面目に占いを受けたことがそういえばないですね。まあ、参考程度に聞くのも手だとは思いますが。しかし、厄に関しては同感です。
どうにも死と直面することが多い仕事ですからね。厄には気を付けている方で、参拝はよくします。

2140:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2014/04/30 at 14:40:27 (コメント編集)

危険なお仕事をしている方は、厄を気にする方が多いようですね。
適度な緊張感と安心と、両方が必要なのでしょうね。
参拝なさるのは良いことだと思います。

私も、真剣に占いをしてもらった事はないです。
占いに頼るようになっては、かえって問題ですからね。
当たるも八卦、当たらぬも八卦。

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