RSS

馬十の辻に風が吹く 第五章―9


 とりあえずは、 目の前の 雪明りの式部である。
 良い人が役に立つとは限らない。
 ここはひとまず ごまかしておこう。
 真咲は 体勢を立て直した。

「千振のせいではなく、 火事場の馬鹿力ではないでしょうか。
 千振は魔法の薬ではありません。
 式部様をご心配なされたあまり、 日頃では考えられない力を発揮なさったのではないかと」
「まあ、 わたくしって、 つくづく罪な女ね」
 ごまかされてくれた。

 上機嫌の雪明りの式部が去った後、
 期せずして 三人はその場にしゃがみ込んでしまった。
 いろんな事がありすぎる。

「真咲先生……。 千振を飲んだようなお顔になっていますよ」
 気がつけば、 桜子が心配そうに覗き込んでいた。
「真咲は なにものんでおらぬぞ。
 あっ!  恋をしたのか? 
 いかん。 いかんぞ。 恋はするな。 余がついておる」

 まだ小さい幸真千の手が、 真咲の肩を やさしくなでさすっている。
 恋?  四年前に 若気のいたりで、 ちょっとだけ。
 でも、 すでにそんなものは木端微塵だ。
 二度も助けてもらう羽目になったけれど、 それはそれ。
 だいたい 真咲を覚えていると言ったことさえ、 今となってはすこぶる怪しい。

 幸真千の言うとおりだ。
 池に引き込まれたり、
 狂った野犬に襲われたり、
 乗っているはずの馬車が丸焼けになったり、
 大きな馬が 目の前で突然暴れ出したり、
 立て続けに身の危険を感じる事態に遭遇し、 今日は また辛い事実を知りながら、
 二人は 突然落ち込んだ真咲を気遣っている。
 本当に どっちが先生か生徒か分からない。
 自信を失っている場合ではない。
 どうあっても守らなければ。 いや、守って見せる。

 真咲は勢い良く立ちあがった。
「もう大丈夫です。 くよくよしても始まりません。 気合を入れましょう。
 お二人には この真咲が付いています」
 おチビ二人も立ち上がる。
「大きく息を吸って、 吐いて。
 行きますよ。 えい、 えい、 おー」
「おーっ」
「おわーっ」

 三人の大声に驚いたのか、 屋根から何かが落ちてきた。
 途中で くるりと器用に体勢を変え、 地面に降り立ったのは 尾だけが黒い白い猫。
 文句ありげに 歯をむき出して睨んだ。
 ふぎゃーっ

「あ~、 生きてる」
「良かったわぁ、 生きています」
「あは、 しぶといですね」
 あまりの騒がしさに、 文句を言おうと飛んできた女官が 尾黒を見つけて、
 三人に負けないくらい けたたましく叫んだ。

「尾黒さまーっ。
 きゃー、 居ましたー。 見つかりましたー」

           第六章につづく


戻る★★★次へ

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア