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馬十の辻に風が吹く 第五章―8


 何度か遭遇しかかる度にかわして逃げてきたが、 もう どうでもいいような気がした。
 ここは素直に謝って けりをつけてしまおう。
 千振をかじらせるなど、 我ながら なんと可愛らしい悪戯だろう。
 平和なものだ。
 でもあの時、 意地悪な気持ちも確かにあったのだ。
 真咲は 観念して振り返った。

「真咲先生、 ありがとう」
「どういたしまして。 …… え?」
 何故だか感謝されている。
 雪明りの式部は はっしと真咲の手を握り締めた。

「本当に 先生のおかげだわ。
 自分でも気が付いていなかったというのに、 一目で見抜かれるとは すごいです。
 もう、 嬉しくて」
「おめでとうございます」
 喜んでいるなら、 まあ良いか と真咲は適当にあいづちを打ってみる。
 『何が?』という疑問は 『面倒臭いから放っておこう』に負けた。

「試しに 半信半疑で胃薬を飲み続けて見たら、
 気になっていた肌荒れが すっかり消えて、
 吹き出物も出なくなるなんて 思いもよりませんでした。
 本当に気分爽快です」
「そうかい」
「肌荒れの原因が胃の腑にあるなんて 知りませんでした。
 わたくしったら どんどん美しくなってしまって、 どうしましょう。
 言い寄る殿方を追い払うのに忙しくなってしまうわ」

 雪明りの式部は 良い人だった。
 追いかけてきたのは、 礼を言いたい為だったらしい。
「私も嬉しいです」
 瓢箪(ひょうたん)から駒(こま)であるが、 ついほのぼのしてしまう。

「ところで真咲先生。 千振って魔法の薬ですの」
 そんなわけは無い。
 実は、 苦いばかりで本当にどこまで効くのか、
 真咲は 秘かに効能そものを疑っていたくらいだ。
「ま、魔法の薬ですか。 いえ、 それはちょっと」

「実はあの時、
 恥ずかしながら わたくしってば、 あまりの苦さに腰を抜かしてしまいましたの。
 葦若の宰相は 動けないわたくしを軽々と抱き上げて、 典薬寮まで走られたのです。
 宰相は 日頃から虚弱体質を標榜(ひょうぼう)なされていらっしゃったし、
 あの時も 右腕に力が入らないと仰っていらしたというのに、
 それはもう 逞しくがっしりとわたくしを抱き上げてくださったものですから、
 びっくりするやら 嬉しいやら。
 驚異の薬効があるとしか思えません」

 そんな馬鹿な、 と言いそうになって、 真咲は慌てて口をつぐんだ。
 そうして思い至った。

 北山院からの帰り道で感じた違和感の正体が、 ついに判明した。
 呪は効いていた。
 素早い動きで剣を振るえるほどに……。
 (嘘つき)
 あのゆるさに騙(だま)されていたのだ。



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