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馬十の辻に風が吹く 第五章―7


 それにしても 器用な猫だ。
 大事に隠しておいた収集品の箱から
 よりにもよって 一番大事にしていた虫を選び出すとは。
 …………! 猫にしては 上手く出来すぎている。

「毒殺に使えるほどの猛毒を持った虫というのは、他にも あるのでしょうか」
 幸真千の収集品は けっこうな数がある。
 真咲は心配になった。

「いや、 聞きませんな。
 本来毒虫とは、 ムカデや一部の毛虫のように、
 咬まれたり 刺されたりして 被害に遭うものです。
 稀に よほど体力の弱った者が 死ぬ事が無いとは言えませんが、
 この国では めったに起こる事ではございません。
 さほど強い毒を持つ虫が いないからでしょう。
 この典薬寮でも、 虫さされの治療法ならございますが、
 虫については 詳しい資料がございません。
 斑猫は 虫そのものをすりつぶして 毒殺に使われたと伝えられておりますが、
 咬まれたり刺されたりして おおごとになった話は聞きませんし、
 実際は よく存じませんのです。
 毒殺に使うとしたら、 むしろ毒草のほうがお薦めです。
 櫟、 曼珠沙華、 鳥兜(とりかぶと)、 鈴蘭、 毒人参に梅蕙(ばいけい)草 と種類も豊富。
 鳥兜から作った鳥頭(うず)は 良く効くそうです。
 えっ? ええーっ! ま、 まさか 毒殺を企んでいらっしゃるとか」

 図解が載っている資料まで広げて、 芦部は 熱心に毒草の解説をしたあげく、
 勝手に驚いてのけぞった。

「お尋ねしたのは虫のことです。 毒草のことなど聞いてませんから」
 聞いてもいない事をしゃべっておいて、
 こちらが毒殺魔にされてはかなわない。
「不用意に毒草など勧めないように!  お願いしますよ」
 真咲は 芦部を睨んだ。
 毒草図鑑をじっと見ていた桜子からも 笑顔が消えた。

「それにしても、 病や怪我を治すのがお役目の典薬寮に、
 毒草の資料が こんなにたくさんあるとは、 おかしくないですか」
 呆れた顔で指摘する真咲に、
「おかしくもなんともないですよ」
 芦部は、 長々と講釈を垂れたのであった。

 内裏の色もの、 元気印の三人組が しおしおとおとなしく歩いていたところに、
 声を掛けた者が居た。
「先生!  真咲先生ってば」
 雪明りの式部である。
 逃げ損ねた。



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コメント
2123: by LandM on 2014/04/22 at 20:21:05

そういえば、日本では虫は蟲毒など刺すイメージが強いですね。まあ、その辺は仕方ないんでしょうけど。それを打ち払うのも珍しいですから興味深いですね。

2124:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2014/04/22 at 22:48:04 (コメント編集)

虫そのものをすりつぶして毒として使う、という方が特殊な例なのだと思います。
だいたいは刺されたり咬まれたりです。

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