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馬十の辻に風が吹く 第五章―6


「やっぱり そうですよね。
 この小鉢は 鰹節と小魚の匂いがします。 猫の好物です。
 紛れて食べちゃったのでしょうか」

 床下から帰還を果たした三人が、 行きかう女官たちから事の次第を知ってからも、
 なかなか尾黒は見つからなかった。
「ミチオシエを食べちゃったのは尾黒でしょうか」
 しょんぼりしている幸真千を横眼でうかがいながら 桜子が呟いた。

「たぶん。 いつもの餌が そっくり残っているそうですから、
 他の物を食べたと考えるのが自然です」
「変なものを食べたから、
 尾黒がお腹を壊して 行き倒れになっているということはありませんか」
 桜子の問いかけに、 真咲は首をひねった。
「猫が虫を食べて、 行き倒れになるものかどうかは分かりませんが、
 ミチオシエが毒虫と言う事は 考えられますね。
 猫が毒虫を食べたら、 いったいどうなるのでしょうか」
「毒虫かどうかという事ならば、 典薬寮で分かるかもしれません。
 先生、 聞きに行きましょう」
 これでは どっちが先生か分からないなあ と思いながら、
 真咲は 桜子の提案に乗る事にした。

 幸真千の為にも 事態をはっきりさせた方が良い。
 世の中には 取り扱いに注意しなくてはいけないものがある。
 知らなかったでは済まない事も起こる。
 大人になれば この国の責任ある地位に就くかもしれないのだ。
 もし 桜子の考えた通りであれば、
 尾黒には気の毒だが、 それを知る良い機会になるかもしれない。


 幸真千が説明し、 桜子が絵を描いて見せた。
 桜子は よく花の絵を描いているから得意だ。
 典薬寮で尋ねれば、 すぐに答えが返って来た。

「ははあ、 斑猫ですね。 子供らはミチオシエと呼んでいるようです。
 異国では、 古来、 斑猫を毒殺に用いた という怪しげな言い伝えがあるらしいですな。
 真偽のほどは 試しておりませんので分かりかねます。
 おいそれと試すわけにもいきません。 わっはっは」

 官位は低いが 大学寮でも一目置かれている薬の生き字引、
 芦部は 知識を披露できる機会を得たのが嬉しかったのか、 高らかに笑った。
 しかし笑いごとではない。
 幸真千から いつもの明るい表情が消えた。



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