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馬十の辻に風が吹く 第五章―4



「真咲―っ、 てがかりがとだえてしまった。
 こうなったら すみからすみまでさがすぞ。 見つけるまでがんばる」
 幸真千が拳を握って、 ひとり気勢を上げたのを潮に、
 太保以は 真咲から視線を引きはがすようにして、 名残惜しそうに立ち去った。

 助かった。
 ひとまず胸を撫で下ろした真咲は、
 太保以の後ろ姿を見送りながら 桜子に聞いてみた。
「大蔵卿のお屋敷には 良く出向かれるのですか」
 警備の都合上、
 出かける可能性がある場所は注意しなくては という腹積もりだ。
「年に一度、 花見の宴にお呼ばれするのです。
 それはみごとな桜が咲くのです」
 今年の桜は とっくに咲き終わった。
 当分は気にしなくて良さそうだ。
 聞きたい事は済んだのだが、 桜子の話が止まらなくなった。

「今年は 去年までと違って 裏庭が面白くなっていました。
 ありきたりの草木が取り払われて、
 屋敷内ではあまり見られないものが植えてありました。
 来年が楽しみです。
 櫟(いちい)の若木がありましたし、
 樒(しきみ)の苗に 鈴蘭(すずらん)、 擬宝珠(ぎぼうし)に似ている葉っぱ、
 杓(しゃく)。 それから二輪草かしら、 ちょっと感じが違う気がするけれど。
 湿った日陰には 朽木が転がっていたり、 落ち葉が積もっていたりしていたから、
 秋になったら たぶん茸が生えてくると思います。
 それから 何もない地面には、 きっとまだ芽が出ていないものが植えてあると思うわ。
 そんな感じだったもの」

 こっちは植物好きだ。
 桜子のお気に入りである東の庭を見れば 「面白い庭」がどんなものか想像がつくが、
 植えてある草木が 本当に変だ。
 高貴な家の庭には 普通は無いものばかりだ。
 桜子の同類が居るのかもしれない。

 ゆっくりとした口調で 大蔵卿の屋敷にある裏庭の説明を終えると、
 桜子は 一言付け加えた。
「真咲先生は、 にぶちんさんですか」
「はい?」
 何か失敗しただろうか。
 二人を守る為に 細心の注意を払っているつもりだ。
 手抜きはしていない。
 にぶちんとは いささか心外だった。
 が、 桜子はおっとりと笑うばかりで、 理由を言わない。
 結局それきりになった。

「ねんのために、 だいりの中を てっていてきにさがすのだ」
 やる気満々の幸真千に つきあう羽目になったからだ。



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