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馬十の辻に風が吹く 第五章―2


「覚えていないのですか」
「そうではない。 ちゃんとおぼえている。
 見つけた場所が もんだいなのだ。
 よそのうちだから、 かんたんには行けない」
「よそのうち?  草叢や道端ではなく……」
「おおくら卿のやしきで見つけたのだ。 かってに入れない」

 御器齧り(ゴキカブリ)の仲間には見えないが、 家の中に出る虫なのだろうか。
 真咲は真剣に考えて、 やっと飛丸が言っていた事を思い出した。
『すんごくきれいだろ。 玉虫よりきれいかもしんない。
 河原の砂地で見つけたんだ。
 こいつは 捕まえようと近づくと 少しだけ逃げる。 また近づくと 少しだけ逃げる。
 まるで道案内をするみたいだから ミチオシエっていうんだ。
 砂地から遠くへは 行けないのかもな』
 飛丸は 得意満面で言っていなかっただろうか。
 いやいや、 ミチオシエではなく斑猫だった。
 見た目はそっくりだけど、 やはり別物なのか。
 そっくりさんで良ければ 飛丸に頼めば捕まえてくれるだろうが、
 別物ならば探しようが無い。
 真咲は 虫には詳しくないのだ。

「廊下を飛んでいたのですか?」
「いや、 見つけた時には死んでいた。 とおもう。
 はじめから うごかなかった」
「そいいうことなら、 お屋敷に住んでいたのではなく、
 落し物かもしれないですね。
 どなたかが捕まえたのを 落とされたのかも」

「おとし物だったならば、 余はいけないことをしたのだな。
 だまってもってきてしまった」
 反省していたのだろうか、 神妙な表情をしていた幸真千だったが、
 たちまち ぱっとにこやかな顔を上げ、
 大きな声できっぱりと はた迷惑な提案を口に出した。

「そうだ。 おとし主をさがそう。
 あやまって、 見つけたばしょをきく。
 そうして二匹つかまえて、 一匹だけかえせばいい。
 そういうのを、 いっせきにちょうというのだろう」
 まだ落し物だと決まった訳ではないのに、 すっかりその気になっている。
 思いついた事は やってみないと気が済まない子だ。
 やらせておくしかない。

 丁度折良くと言って良いのかどうか、 東宮坊の使いで 太保以が内裏に来た。
 朝廷の官位を得た人は 官位や役職で呼ばれるのが慣例になっているのだが、
 帝の甥であるにもかかわらず、 似つかわしくない地位にある太保以に、
 困りあぐねた周囲が 「坊の宮」という呼び方を編み出した。
 東宮坊に居らっしゃる宮様ということだ。
 すでにその呼び名が すっかり定着している。

 虫は好きか という幸真千の突如として直截な問いかけに、
 太保以は ゆっくりした瞬きを二度繰り返した後、 おもむろに答えを返した。
「いや、 好きじゃない…… というより不得意だね」
 従兄弟同士の気安さか、 ざっくばらんな返事だ。

「おじうえのやしきで、 虫がすきなのはだれだ」
「さあね。 人はたくさん居るから分からないなあ。
 虫好きを探して どうするんだい」
「あやまりたい。 しかるのちに、 きょうりょくをたのみたいのだ」
「協力?  何の?」

「余のたからもの、 ミチオシエがなくなったのだ。
 あっ、 これはだれにもないしょだからね。
 みんなにひろうしようと思っていたのに、 かんじんのミチオシエがいなくなったから、
 見つけるまではないしょなのだ。
 じつは、 おおくら卿のやしきでひろったのだ。
 おとし主をさがして、 見つけたばしょをたずねたい」



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