RSS

馬十の辻に風が吹く 第五章―1


 歌会も 絵合わせも お茶会も 管弦の夕べも、
 もちろん 葉っぱを眺めて何をするのか不明な会も 片っ端から中止になった。
 葦若の宰相が内裏に姿を見せないからである。

 そのかわりに、 砂々姫が 熱密から持参した手土産が 内裏の后妃たちを喜ばせた。
 珍しい香木や 美しい木目の木工品などであったが、
 それらと共に贈られた鶯(うぐいす)が 紅椿は特に気に入ったらしい。
 異国の風情を漂わせる鳥籠に入ったそれを 自ら帝に所望し、
 今度こそは尾黒の餌食にしてなるものか、
 と 高い場所に吊り下げて、 美しい鳴き声を楽しんだ。

 嗚呼(ああ) それなのに、
 何処からどうやって跳びついたものやら、 呆気なく狩られたのだ。
 これには 紅椿本人よりも、 仕える女房たちが怒った。
 警戒していたにも関わらず、 あっさりと出し抜かれたからだ。
 世話をしていた甘蔓(あまかずら)の命婦などは 怒りに身を震わせたほどだ。
 以前にも増して騒動になった。

 高貴な貴婦人のように優雅な黒猫の新月や、 愛嬌のある三毛猫の茶帽子は
 木五倍子殿以外の女官たちにも それとなく可愛がられているというのに、
 尾黒は 何処までも問題児街道をまっしぐらに進んでいるのであった。
 毎度 困ったものである。

 ただでさえ騒がしいというのに、 幸真千までが バタバタと駆けこんできた。
「真咲、 たいへんだ。 ミチオシエがいなくなってしまった。
 余のごうかけんらんな しゅうしゅう品のきもだというのに、
 生きかえって とんでいったのだろうか」

「そこまで器用な虫ではありませんでしょう。
 あれは 確かに死んでいましたもの。 別の箱に紛れてしまったのでは」
「箱をぜんぶたしかめた。 いない」
 言いながら、 今にも泣きべそをかきそうな様子である。
「きれいな虫でしたから、 どこかの物好きが盗んだのでしょうか。
 困りましたね。 殿下の収集品は有名なのですか」
「あれは 余のないしょのたからものなのだ。 知っているのは 姉上と真咲だけだ。
 あっ、 葦若のさいしょうも知っているな。 それきりだ」
「あら、 容疑者は三人だけですか。 もう少し増やすわけにはいきませんかしら」
「ふえない」

 幸真千は いつもの元気は何処へやら、 至極真面目な顔で答えるのみである。
 困った事がまた一つ。 葦若は内裏に姿を見せていない。
 正確な容疑者は 二人だけになる。

 桜子と真咲は 互いに顔を見合わせて、 首を横に振った。
 二人とも 虫には興味を持っていない上に、 幸真千を可愛がっている。
 悲しい顔は見たくない。
 無くなったものは仕方がない。 たかが虫一匹の死骸ではないか。
 そう言いたいところだが、 真咲は我慢した。
 幸真千にとっては 大事な宝物なのだ。

「別のミチオシエでもかまわないのでしょう。 もう一度捕まえましょう。
 あれは 何処で捕まえた物ですか。
 同じ場所に行けば、 見つかるかもしれません」
「おお、 良い考えだ」
 ぱっと明るい顔になる。
 が、 少し考えているうちに、 だんだん困った顔になって来た。



戻る★★★次へ

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
2067: by キョウ頭 on 2014/04/04 at 20:37:39

実家で飼っているので、何となく分かります。
猫はホント、油断ならない動物ですよ

2071:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2014/04/05 at 10:19:23 (コメント編集)

油断ならない猫にしょっちゅう追いかけられるネズミも、なかなかのものです。
長い尻尾で、籠の中の小鳥を絞めることがあるのだとか。
飛べない鳥には危険がいっぱいです。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア