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馬十の辻に風が吹く 第四章―7

 真咲が落ち着かない日々を過ごしているうちに、
 熱密からの一団は 蛍原京に到着した。

 使節団の代表は 若干十六歳の砂々姫である。
 可愛らしかった少女が 四年の年月を経て、 鮮やかな大輪の花になっていた。
 右の頬にある小さな泣き黒子が 艶(あで)やかな印象的を添えている。

 まずは 型通り挨拶の応酬である。
 辺境にある属国の美しい姫君は、 またたく間に 朝廷の人々を魅了した。
 あんなに美しい姫君が 事もあろうに軍馬の売り込みを自らするとは思えない。
 傍に付いている あなどれない面構(つらがま)えの初老の男が、
 実質的な交渉相手になると真央土側は考えた。
 事は軍馬である。
 兵部省と兵部省に属する兵馬司(うまのつかさ)を従えて、
 交渉責任者には 葦若の宰相が任じられた。
 ゆるさで対抗するつもりなのだろうか。

 今後 真央土国の軍事を大きく変えるかもしれない重要な交渉になる。
 朝廷のここかしこで 熱密馬に関しての話し合いが沸騰し、 何かと騒がしくなった。
 また、 これまでになく大勢の熱密人が 都に長期滞在する事により、
 ちまたの都人が事態を珍しがってか、 落ち着きを欠いた様子にもなっていた。
 事件が起こっては困るにもかかわらず、 事件を起こしやすい状況であった。

 朝廷は 押しの強そうな初老の男を警戒した。
 見るからに やり手っぽい。
 一方的に熱密優位に持って行かれないようにしなくては、 …… と。
 ところがどっこい 熱密国の責任者は 砂々姫本人だった。
 葦若は 誰はばかることなく砂々姫にへばりついているという話が、
 朝廷はおろか内裏にまで流れた。

 葦若が内裏に姿を見せる事が めっきり無くなった。
 本命が登場してしまえば、 大穴の真咲は すっかり霞んでしまう。
 誰も注目しなくなったのは嬉しいが、
 日々耳に入って来る 葦若と砂々姫の仲が良さそうな噂は あまり面白くない。
 ただでさえ 緊張を強いられる役目にあるというのに、
 葦若のせいで 多万記叔父さんの矛先(ほこさき)をかわす役まで押し付けられ、
 貧乏くじを引かされた気がしてならない。

 苛々が高じて、 硯箱から筆を出そうとした時 うっかりひっくり返してしまった。
 その拍子に 煌びやかな刀子が転がり出る。
 ドキッとして 慌てて拾い上げ、 きっちりと隅っこにしまいなおした。
 役目を終えたら、 これはどこか山の中にでも埋めよう。
 そうだ、 それが良い。
 自信があった呪が、 思いのほか効いていなかったのは残念だったが、
 真咲にとって 良いきっかけになったのは確かなのだ。
 感謝して葦若の幸せを祈ろう。

 熱密馬が大きく逞しいのは 見ただけでも判る。
 しかし 実際の能力に どれほどの違いがあるものか比べて見よう、
 と 言い出した人が居たらしい。
 大内裏のはずれ、 馬寮(めりょう)の近くに 空いた場所がある。
 そこを馬場にして 比べ馬をする事になり、
 朝廷の主だった人々のみが 見物することに決まった。

 抑えきれない好奇心の持ち主である桜子と幸真千は、 当然 黙っていられない。
 帝に しつこくおねだりをして、 渋々許された。



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