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馬十の辻に風が吹く 第四章―6


 心ならずも時の人になってしまった真咲は、
 噂を無視することにした。

 何を言われているのかは 想像が付く。
 真咲が噂をする側だったら、
 古臭いなりをした眼鏡女と 美形宰相の間に縁談が持ち上がった などと聞いたら、
 冗談だと分かっていても 絶対に笑い転げる。
 三日は笑える自信がある。
 十日くらいは 十分楽しめるかもしれない。
 だから 気にしたところでしょうがない。

 内裏中から注目されているから、 こっそりとは動きにくいが、
 本来の役目を考えれば、
 真咲が 桜子と幸真千の傍に居れば 敵だって仕掛け難いだろう。
 損得を考えれば 五分五分だ。

 困ったのは、 桜子も噂を聞いてしまったらしく、
 好奇心をいっぱいにみなぎらせた目をキラキラさせて 勉強に身が入らない事だ。
 本人に直接確かめようと 決意を固めて口を開こうとするのが見える度に、
「集中!」
 質問を封じる事に忙しくなってしまった。
 こんな事を いつまで続ければいいのかとげんなりする。

 しかし、 面倒は思わぬところからやって来た。

 誰かが本当に頼んだのだろうか。
 東宮の使いとして 太保以が来るようになった。
 そして驚いた事に、 東宮から真咲に宛てた文を持ってきたのだ。

 東宮は幼い頃、 石動原の領地 斗平野(とへの)に遊びに行き、
 しばらく滞在した事があったらしい。
 その折、 会った事がある多万記が 東宮殿に挨拶に行ったという。
 真咲に会いたいがどうしたらいいだろうか と相談されたので、
 文をしたためた と書いてあった。

 東宮を使うとは うまい手だ。
 葦若は 阻止すると言っていたから、
 多万記も直接手出しができない状態にあるのだろう。
 ただし、 東宮の文に 会ってやってくれとは一言も書いてないのが ありがたい。
 しょうがないので 返事を書く。

 何しろ 東宮への文である。
 失礼にはならないように 細心の注意を払い、
 長々とした季節の挨拶を書き連ね、 知ってる限りの修辞法を駆使し、
 あいまいな内容を ぼかしにぼかした。

 行間を探り、 言葉の裏や 横っ面を読み取ってもらえれば と祈るような気持ちで書く。
 文章の巨大迷路を迷子にならずに謎解きしてくれれば、 断っているのが判るはずだ。
 簡単に言えば、 教育係になって日も浅い。
 このごろ やっと手ごたえをつかみ始めたところであり、
 今は 一瞬でも皇女から目を離さず 役目に邁進(まいしん)したい。
 身も心も他の事に割く余裕が無いのだ という意味の事を書いた
 …… つもりだ。

 慣れない事をしたことから来る頭痛を呪で癒し、 東宮殿に使いをお願いした。
 冷や汗ものである。
 


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