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馬十の辻に風が吹く 第四章―4

 褒めてくれるのは嬉しいが、 さすがに ちょっと違うぞと思う。
 見かけだけだという自覚はある。
 役目柄、 しっかり見えるように頑張っているだけだ。
 それより何より、 葦若は命の恩人を妻にすると決めているはずだ。
 承知しないだろう。
 そうだ。 こっちは それどころではない。
 皇女と皇子を狙う悪者を突きとめて 退治しなくてはならない。

「あはっ、 あの変わり者っぽい先生ですか……」
 ついに 変わり者呼ばわりされてしまった。
「おお、 すでに見知っておるのか。 それならば話が早いではないか」
「叔父が余計な文を書き、 申し訳ございません。
 北山院にも 陛下にも 十分良くして頂いています。
 これ以上 私ごときの為に お心を煩(わずら)わせては心苦しく、
 どうぞお気になさいませんよう……」

 あからさまに困ったような声が漏れ聞こえる 縁の下の薄暗がりに、
 金色に光る一対の瞳が 音も無く出現した。
 尻尾だけが黒く、 他は真っ白な猫。
 木五倍子殿で飼われている お騒がせもの。
 悪名高い尾黒だ。

 さらに懸命に断ろうとしている葦若の声を後に残して、 真咲は撤退した。
 尾黒相手に、 こんな場所での接近遭遇は分が悪い。
 長居は無用だ。


 間もなく 真咲に災難が降りかかった。
 真咲の姿を見かけた女官たちが、
 互いに袖を引き、 こそこそと楽しそうに 噂話に興じている様子が見て取れた。
 注目されている気がする。
 何か変だろうか と身だしなみを確かめた。
 眼鏡は曲がっていない。
 髪は簡単にまとめてあるだけだが、 いつも通りだ。
 古臭いかっこうは今更だし、 何か注目を集めるような失敗でもしたのだろうか。
 でも 心当たりが無い。
 行く先々で話のタネにされているらしいのが 落ち着かない。

 そのうち 女官たちの中から 一言二言漏れ聞こえた言葉をとらえた。
「葦若の……」
「宰相………… 縁談……」
 あっ と気が付いた。
 白桐殿に同席していた内侍の仕業だろう。
 帝と葦若の話の顛末(てんまつ)を、 面白おかしく ばらまいたに違いない。
 どういう噂になっているのだろう。
 花澄に聞きたいが、今や何処に居ても注目の的である。
 迂闊に怪しい素振りは見せられないし、 花澄から接触してくる様子も無い。
 葦若が ちゃんと断ったのかどうかも ものすごく気になったが、
 まさか盗み聞きをしていたとは言えない以上、 直接 葦若に確かめるわけにもいかなかった。

 うっとおしい視線を避けながら、 どうしてくれよう と思案にくれる日暮れ間近、
 葦若が真咲に会いに来た。
 珍しく困った顔をしている。
「差し迫ったお願いがあるのですが、 聞いてもらえるだろうか」
「お断りいたします」



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