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馬十の辻に風が吹く 第三章―7

「それは無いわね。
 みそっかすの…… あら失礼、
 まだ お小さいお二人が 一人に狙われるだけでも多すぎます。
 護衛に付いていたのは 安太良(あたら)と聞いています。
 彼は人柄が良く、 剣の腕も悪くありませんが、 機転が利きません。
 気性が真っ直ぐで 何も考えていませんから、
 おそらく燃えている馬車には見向きもせずに 御者の手当てでもしていたのでしょう。
 敵が 首尾を見届けようとしていれば、
 馬車に乗っていないことを容易に察したと思われます。
 バレバレです。
 万が一 姿を見られた時のことを考えて、
 初めから山賊めいた野卑な身なりをしていた事も 大いにあり得ます。
 宰相の事ですから のんびり進んでいたのでしょうし、 先回りなど簡単にできます。
 それにしても困りました。 時期が悪すぎます」

 淡々とした口調の中に、 わずかに 忌々しげな響きを感じ取って、
 真咲は問い返した。
「何かあるんですか?」
「間もなく 熱密から使者の一団が来ます。
 四年前よりも人数が多く、 滞在期間も長くなる予定です。
 大内裏にも頻繁に訪れることになるでしょうし、 洛中が何かと騒がしくなりそうです。
 事件が起こって欲しくありません」

「四年前……」
「右大臣の事件が起きた時と重なりましたから、 あまり話題にもなりませんでした」
 そうだった。
 傷ついた葦若を介抱したのが、 ほかならぬ熱密から来た一行だった。

「何をしに来るのですか」
「表向きは 貢物(みつぎもの)を持って帝に表敬訪問ということになっていますが、
 その実、 熱密馬の売り込みでしょ。
 前回は 上手くいきませんでしたからねえ。
 右大臣様の御一家が殺されて 馬どころではなくなってしまいましたし、
 時の帝北山院が激怒されて 朝廷が さらに混乱していましたから。
 今回は 陛下も興味をお示しになっていらっしゃるとか。
 大がかりな商談になりそうです。
 四年前の顔ぶれに加えて、 馬飼いやら馬具の専門家やら いろいろ連れてくるそうですよ」

「馬車馬の売り込みですか?」
「違うと思います。
 前回は ろくに話も出来なかったから
 馬車と去勢済みの馬車馬だけを 貢物として置いていくにとどまったけれど、
 騎乗用の軍馬が目的ではないかと思うの。
 売る方も 買う方も」

 献上品の馬車馬がきっかけで、 この国の人々は馬を去勢するという事を知った。
 気性の荒い馬は 馬車には使いにくい。
 馬車馬にするなら、 雄はほとんど去勢する必要があるが、
 真央土馬は小柄なくせに 気性だけは荒く、
 去勢してもなお 馬車馬に向いているとは言い難い。
 真央土国に牛車があっても 馬車を考えなかった理由の一つがそこにある。

 一度は 事件のせいでご破算になった話である。
 準備を整えて乗り込んでくる ということなのだろう。
「みそっかすとはいえ、 仮にも皇子と皇女の身に不幸が起これば、 四年前の二の舞です。
 宗主国の面子(めんつ)が潰れるばかりでなく、 属国に隙を与える事になりかねません。
 真咲さん。 頼みましたよ」

 何度も繰り返される 『四年前』という言葉に、
 血まみれになりながらも、 ひとり 最後まで戦っていた少年の姿と、
 目の前で見た惨劇が まざまざとよみがえる。
 言われなくても、 あんなことは もうたくさんだと思った。

          第四章につづく



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コメント
2020:管理人のみ閲覧できます by on 2014/03/12 at 18:39:12

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2021:Re: 鍵コメO様 by しのぶもじずり on 2014/03/12 at 20:28:14 (コメント編集)

OKなのですが、
そちらにコメントしようとしたら、メールアドレスを入力しなくてはならないのですね。
私はアドレスを一つしか持っていないので、考え中です。
コメントしたいです。でもどうしましょう。という感じです。

メールアドレスの入力無しでコメントする方法はないでしょうか。

2022:管理人のみ閲覧できます by on 2014/03/13 at 19:44:19

このコメントは管理人のみ閲覧できます

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