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馬十の辻に風が吹く 第三章―6


 戦いが一瞬 膠着(こうちゃく)した。
 慣れている分、 真咲が わずかに早く我を取り戻し、
 地面に飛びこむように転がりざま、 手近な敵の足首を斬りつける。
 ふわりと身を起して腕を狙ったが、 それは失敗に終わった。
 だが、 混乱しかかっていた敵は、 完全に統制を失った。

「見るからに怪しい物盗り風。
 しかも 五人がかりで一人を襲うとは 不埒千番。
 無法を見過ごせません」
 公達――葦若の宰相が、 太刀を抜き放つや 見事な太刀さばきで参戦したのだ。
 強い。
 山賊を装った襲撃者たちが 慌てふためくのが分かった。
 闘いの趨勢(すうせい)は たちどころに逆転した。
 葦若に次々と斬り掛かられて、 防戦に転じてゆく。
 真咲も 勢いを取り戻して反撃に出た。
 ついに敵は諦めて 悔しげに逃げていった。
 動きを封じたはずの者も とうに逃げたのか姿が見えない。
 後を追って正体を突き止めたいが、 第一の役目は 皇子と皇女を守ることである。
 二人の傍を離れるには、 まだ不安がありすぎた。
 近くに敵が残っていないことを確かめて、 真咲も姿を隠した。

 助かった。
 あと少しでも葦若の登場が遅ければ、 危ないところだった。
 しかし……。
 ―― 野糞って言ったよね。
 勇ましい姿を見て、 一瞬よみがえりかけた四年前の凛々しい印象が 戻ってこない。
 緊迫感のとことん無い あの問いかけの意味は…… 考えたくない。
 それにしても何だろう。 何かがおかしい。
 正体がはっきりしない 奇妙な違和感が残った。

*     *     *

「真っ直ぐ進んで 二つ目の角を右に」
 花澄に報告しようと渡殿を歩き出してすぐに、
 特徴の無い ささやき声が後ろから聞こえた。
 さすが 卯白(うしろ)の女蔵人だ。
 指示どおりに進む。
「次の角を左」
 たどり着いたのは、 行事の時に使う特別な道具がしまってある部屋である。

 真咲の方から口を開いた。
「姉さん事件です。 やはり事故ではありません」
 桜子と幸真千が乗っているはずだった馬車が、 不審火で丸焼けになった事。
 道を変えたところ、 誘いこまれた場所で 山賊を装った男たちに待ち伏せをされていた事までを
 できるかぎり詳しく話し、 ふと首を傾げた。

「あらっ? 
 焼けた馬車にお二人が乗っていない事に 何故 あんなにも素早く気が付いたのかしら。
 変ねえ。 もしかして、狙っているのは一組じゃないのかしら。
 大変。 大勢に狙われているわ」
 興奮し始めた真咲を冷ややかに見つめながら、 花澄は首を横に振った。



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コメント
2016: by キョウ頭 on 2014/03/10 at 20:56:36

何と!
ただの女たらしでは、なかったのですねぇ!
おまけに野糞も平気とは、男らしさ満載ではございませぬか(なのか!?w)

2017:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2014/03/11 at 18:43:19 (コメント編集)

そうですよ~ん。
お忘れかもしれませんが、冒頭のシーンを思い出して下さいませ。
少年だった彼は、賊を相手に最後まで果敢に闘っていたじゃありませんか。
弱かったら真っ先に殺されていたでしょう。
……そう言う設定です。

2018:管理人のみ閲覧できます by on 2014/03/11 at 19:30:35

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019:管理人のみ閲覧できます by on 2014/03/11 at 22:24:15

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