RSS

馬十の辻に風が吹く 第三章―4


「あれまあ、 今日は どうも災難続きだ」
 分かれ道に差し掛かった時、
 御者が 情けなそうに声を上げて馬を止めた。

 倒木に駆け寄った安太良が、様子を確かめて戻ってくる。
「縄でもあれば、 馬にくくりつけて引くが」
「あいにく 木を引けるほどの縄はありません。 あっちの道を行きましょう。
 この馬車なら それほどお三方の負担にはならないと思います」

 安太良と御者のやりとりを聞いていた葦若が、
 おもむろに馬車を降りた。
「ちょうど良い。 すこし待っていて欲しい」
「どうかなさいましたか」
 兄多遅が 御者台から飛び降りる。
「いや、 ちょっと 野の花を眺めに行ってくる」
「こんな場所で いきなり風流ですか。
 皇子様と皇女様が いらっしゃるというのに。
 さっさと帰りましょう」

 兄多遅の言うことはもっともだと、 全員が 葦若に不審な目を向けた。
「いやだなあ、 だからじゃないか。
 少し食べ過ぎたようです。
 お腹の調子が良くありませんが、
 野糞がしたいだなんて 尾籠(びろう)な事は言えないから、
 せっかく風流に言い換えたのに。
 では、 野の花を探して 茂みを分け入ってこようと思います。
 しばし待て」

 どう言いつくろおうと、 野糞は野糞。
 全員が言葉も無く、 肩を落とした。
 突っ込みどころが判らない。

「太刀(たち)をお預かりしましょうか。 邪魔でしょう」
「いいえ、
 邪魔な下草があれば 刈り取らなくてはならないだろうから、 持っていきます。
 細かい事が ひどく気になる性質(たち)ですから」
 葦若は、 兄多遅の申し出を軽く断り、 すたすたと林に踏み入って姿を消した。

「あのう……、 余計な心配かもしれないが、
 尻を拭く物は お持ちになったのだろうか」
「さあ、 どうだかな。
 なに、 この季節だ。 やーらかい葉っぱが いくらでも生えているだろ」
 安太良と兄多遅の会話である。
 桜子と幸真千は、 お行儀よく 聞かないふりをした。



戻る★★★次へ

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
2004: by キョウ頭 on 2014/03/05 at 21:17:35

「聞かないふり」
時と場合によっては、最強の処世術でしょうか…w

2005:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2014/03/05 at 22:15:17 (コメント編集)

この場合は、大それたものではなく、ちょっとしたマナーでしょうか。
役立たず呼ばわりをされても、皇子と皇女ですから。一応ね。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア