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馬十の辻に風が吹く 第三章―3


「野火(のび)だ!」
 兵士は叫ぶように答えながら 近づいてきた。

「野焼きの火が 飛び火したようだ。
 この先、 道の両側に 大きな茂みが迫っている場所があるだろう。
 通りかかったら、 突然火にまかれた。
 馬車が巻き起こす風に煽られたのか、 あっという間に火が移った。
 おまけに 枯れ草の塊(かたまり)が飛び込んで、 馬車が炎に包まれた。
 何とか馬を切り離したものの、
 御者は火傷を負って転げ落ちるし、 馬車は ものすごい勢いで丸焼けだ。
 空だと知っていたから 落ち着いて対処できたが、
 皇子様と皇女様がお乗りになっていたらと思うと ぞっとする。
 我が命を投げ捨てても、 お助けできたかどうか……」
 二人を救おうと焦り、 馬を切り離す事を怠っていれば、
 炎の馬車が走り続けて 被害を拡大していたろう事も十分に想像できた。

「御者はどうした」
「幸い命に別条はない。 もう一人の護衛に任せた」
 草叢の陰から 真咲も事の次第を聞き、
 居眠りしているところを蹴飛ばされたような衝撃を受けた。
 道を外れて、 木の陰や草叢に身を隠しながら並走し、 護衛していたのだ。
 いや、 護衛しているつもりでいた。

 野火? 
 野焼き? 
 若葉が勢いよく生い茂るこの季節に。
 冗談じゃない! 
 都育ちは知らないのかもしれないが、
 野焼きが行われるのは、 草が新芽を出す前の浅い春。
 これは 事故を装った襲撃臭い。
 桜子と幸真千は無事だった。
 しかし、 そのことに 真咲の手柄は何一つ無い。
 葦若の馬車のおかげと言うしかない。
 乗り換えていた事と、 出発が遅くなったことが幸いしただけだ。
 事故だろうが襲撃だろうが、 真咲の油断に違いは無い。
 背筋に冷たい汗が流れた。

「あの……、 まだ燃えているのでしょうか」
 兄多遅の隣から 御者が、 さすがに青い顔で尋ねた。
「下火にはなったが、 道の真ん中にくすぶっている馬車がある。
 道をかえた方が良い。 それを伝えに来た」
 馬車は向きを変えた。
 安太良は そのまま葦若の馬車に付いていく。

 真咲は走った。
 先回りして、 行く手の安全を確かめなくては。
 馬車には 兄多遅と安太良が付いている。
 迂闊(うかつ)だった。
 何をのんきにしていたのだろう。 ただの子守ではない。
 真咲は神経を尖らせ、 どんなに些細な異常も見逃すまいと走った。

 赤い花を咲かせ始めた 低木の群れ。
 若い緑の 草いきれ。
 囁(ささや)きかわす 小鳥の声。
 色も 匂いも 音も 見逃さない。
 これは訓練ではないのだ。 命に関わる真剣勝負。
 これが計画的な襲撃で、 内裏の事件を起こしたのと同じ者の仕業なら、
 何度も失敗を重ねるつもりはないはずだ。
 時をおかず、 第二の襲撃があってもおかしくない。

 間もなく 分かれ道に行き着いた。
 都の周囲の地形は、 訓練の度に自分の足で走って把握している。
 疎(まば)らな林を通る 南に向かう道が近道だが、 幅の狭い でこぼこ道だ。
 馬車で行くなら 遠回りでも 西に向かうのが常道だろう。
 道幅の有る なだらかな道だ。

 真咲は 近づいて眉をひそめた。
 倒れた木が行く手を塞いでいた。
 朽木ではない。 自然に倒れたようには見えなかった。
 いよいよ怪しいが、 一人で片づけるのは無理だ。 二人でも難しい。
 御者は貧弱な小男。 虚弱体質らしい葦若も 頼りにできない。
 となれば、 でこぼこ道も平気らしいから 馬車は南に進むだろう。
 気に入らない。

 真咲は 足音をさらに潜ませ、 気配を殺して、 林に踏み入った。



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