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馬十の辻に風が吹く 第三章―1


 北山院の 賀の祝いが催されることになった。
 賀の祝いは、慣例により 年若い者たちの手によって進められる。
 六十歳の長寿を祝い、 東宮を中心に 若くて元気な次世代を担う青少年が、
 院の住まいである北山の館に集った。

 皆、 これからという 十代を中心にした若者ばかりである。
 東宮は別格として、 朝廷でそれなりの地位にあるのは、
 参議に就いている葦若と
 中務省の内記(ないき)である 磐之倉徳晃(のりあきら)くらいのものである。
 徳晃は 石切親王を推(お)した為 隠居する羽目になった 先の大納言の息子。
 父親の失策を挽回しようとしているのか、 目覚ましい働きぶりだと評判だった。
 北山院お気に入りの孫、 桜子と幸真千も出席している。

 格式張らない なごやかな宴になった。
 東宮が祝いの辞を述べると、 その場の空気が いちだんと華やかさを増した。
 彼の 唯一と言って良い取り柄である。
 北山院は ご機嫌で、
 子供に返ったかのように 若者たちと一緒に歌を歌ったり 踊ったりと 賑やかな時が過ぎた。

 そういう場に 教育係りの出番は無い。
 真咲は 古めかしい扮装を解き、 眼鏡をはずして、 下働きの下女に交じり、
 こっそりと 陰から様子を見守っていた。
 取り立てて怪しいそぶりをする者は 見当たらない。
 高貴な身分ばかりとはいえ、 そこはまだ子供。 可愛いものである。

 やがて 東宮が退席したのを潮に 宴は終わり、
 集まった若者たちは 三々五々と引き上げていった。
 一人緊張していたのか 徳晃もほっと息をつぎ、 牛車に乗って、 そそくさと帰っていく。
 集まったのは 若くて元気のいい盛りの者たちばかりであり、
 体裁を気にするほどの地位にも無い為、 騎馬で来た者がほとんどである。
 馬に跨(またが)って 次々と帰ってしまった。

 最後まで北山院にまとわりついていた桜子と幸真千が、館を出ようとすると、
 門のところで 葦若と出会った。
 もう他には残っていない。
「宰相、 まだおったのか」
 幸真千の声に、 葦若は振り向いて のんびりと応える。
「楽しかったですね。 楽しくて疲れてしまいました。
 一休みをしていたら、 みんな帰ってしまいました」
 相変わらずである。

「だいじょうぶだ。 宰相の馬車馬は ひときわ力がありそうではないか。
 屋敷まで ひとっ走りで着くであろう」
「あら、 それは駄目でしょう。
 そんな事をしたら、 ひどく揺れてしまうでしょうから、 宰相が壊れてしまうわ」

 軽口で はしゃぐ幸真千も桜子も、 まだまだ元気が余っている。
「そうだ!  内裏まで競争しよう」
「宰相がバラバラに壊れて、 元に戻らなくなったら不便です」

 馬車は 牛車よりも速く走らせる事が出来る。
 しかし 速度を上げた場合、 その分揺れが大きく、
 乗り慣れない者は 中で転げてしまうこともあるのだ。
 その為、 牛から馬に替わっただけでなく、 車体の作りも随分と違う。
 早くから興味を示していた都の匠(たくみ)の中に
 熱密製の馬車を参考にして、 都人好みの意匠で車体を作る者が出たが、
 どちらにしろ、 かなり高価なものである。
 未だに普及はしていない。
 熱密から朝廷に贈られたものと 石動原家のものを含めても、 まだ何台もないのだ。



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