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馬十の辻に風が吹く 第二章―11


「真咲。 これの名が判らぬ。教えてくれ」
 唐突に質問されたが、 あい にく 虫には詳しくない。
 名札の付いていないものが 他にいくつもあるからには、 例の奥の手は使えない。
 全部 自分で調べろ と言ってしまったら、 あまりにも無責任だ。
 見たことがあるような気がしないでもないが、
 箱を手にとり、 近くで見ても はっきりしたことは言えない。

「虫は あまり知りません。
 虫好きの子供が 『道教え』と呼んでいたような気がしますけど、
 自信はありません」
 それ以上の説明を諦めて、
 虫の並んだ箱を、 ぼんやりしている葦若の膝に乗せた。

「……班猫(はんみょう)……です」
 いきなり箱を渡されて、 もの想いから覚めたように 葦若がぽつりと答えた。
「ハンミョウ?  妙な名だな」
 幸真千が 目を輝かせた。
「まだらねこと書きます」
「虫なのに 名前が猫なのか。 困った虫だ。
 余は ミチオシエの方が好きである」
 せっかく教えてもらったというのに、 困った子だ。

 その時、 近くに人の気配を感じた真咲は、 立ち上がって さりげなく廊下に出た。
 目に留まったのは、 一人の女官である。
 女官は 慌てて言い訳をしはじめた。
「申し訳ございません。 お邪魔をするつもりはなかったのですが、
 宰相をお見かけしたものですから、 つい……」

「ああ、 『葉っぱを眺める会』の催促ですか。
 かまいません。 是非、 強制連行してください」
 これ幸いと追い払おうとする真咲の後ろから、
 箱を抱え、 斑猫をつまんだまま、 のそのそと顔を覗かせた葦若が 物憂げに口を挟んだ。
「違うようです。 葉っぱじゃありません。 何の用ですか」

「お話が終られるのをお待ちするつもりでしたのに、 申し訳ございません。
 紅椿様のお言い付けで、 御文をお渡しするよう申しつかってございます」
 紅椿に仕える命婦、 甘蔓(あまかずら)は、 文を取り出して差し出した。

「今度は なんのお誘いでしょうか」
 葦若は 無造作に虫を箱に戻し、
 受け取った文を開きもせずに 懐にしまった。
「歌会でございましょう。
 紅椿様が、 久方ぶりに 大いに笑いたいものだと仰せでしたから」

 甘蔓は 虫箱に視線をくぎ付けにしたまま、
 真面目な顔を崩さずに 言ってのけたが、
 歌会で大いに笑う とはどういうことだろう。
 真咲は首をかしげた。

 理解できずに 怪訝(けげん)な顔をする真咲と 葦若に丁寧な辞去のあいさつを残し、
 甘蔓は去った。


        第三章につづく



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