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馬十の辻に風が吹く 第二章-9


「胃は元気になりましたか」
 桜子が 余計なひと言を付け加えた。

 葦若が とぼけた笑顔を 桜子から真咲へと移す。
「いえ、 残念なことに、 すぐ吐きだしてしまいましたから。
 あまりの苦さに驚いて 典薬寮に駆けこんでしまいました。
 先生が あんな悪戯(いたずら)をするお茶目さん とはつゆ知らず、 してやられました。
 おかげで 千振を覚えました。 もう忘れません」
 怒るでもなく へらへらされると、 それはそれで面白くない真咲だった。

「私も覚えました。 真咲先生は 教えるのがとてもお上手です」
 桜子は 本当に優秀な良い子だ。
「余も覚えた。 恋は とんでもなく苦いのだ」
 葦若が目を丸くするのにかまわず、 幸真千は とっとと歩き出す。

「殿下、 ゆっくり歩きませんか。 息が切れてしまいます」
 情けない事を云いながら、 葦若が付いて来る。

 のんびりしたテレテレ歩きになった一行に従いながら、
 真咲は 葦若にもう一度聞いてみた。
「お仕事はいいのですか。 お忙しいのでは」
 出来れば どっかに行って欲しい。
「かまいません。
 『木五倍子の若葉を眺める会』とやらにお誘いを受けたのですが、
 花ならともかく、 葉っぱを眺めて いったい何をすればよいのやら、
 さっぱり見当が付かないのです。 のちほど 顔だけ出しておけば問題ありません」

 そういえば、 噂によると 葦若の宰相は、
 やれ花見だ、 月見だ、 雪見だとか、
 あるいは歌会だ、 絵合わせだ、 管弦の宴だ、
 単なる飲み会だの どうでも良さげな茶飲み話だのと 事あるごとにお呼びがかかり、
 頻繁(ひんぱん)に 内裏に顔を出しているらしい。
 それを思い出して、 真咲は なんちゅう暇人なのだとあきれた。
 まめな奴と言うべきだろうか。

「宰相は、 あちらこちらの姫君とか 女官たちに大人気ですものね。
 いったい 何人妻を娶(めと)るおつもりなのかと 大臣(おとど)が心配していましたよ」
 桜子が、 いつもの のんびりした口調で言い出した。

「大丈夫。 妻は一人と決めています」
 節操なしの男かと思ったら、 案外真面目なのだろうか。
 少しは見直してやってもいいかも。
 真咲は意外に思った。

「何人も居ては、 今宵(こよい)は どなたと仲良くしようかと迷ってしまいます。
 そんなことでは 毎日疲れてしまいます。
 虚弱体質なもので、 疲れることは避けたいのです」
 葦若は、 にこやかに理由を説明する。

 だ~めだ、 こりゃ。
 一瞬でも見直しかけたことが痛い。
 真咲の中で、 四年前の 凛々しい少年の印象がどんどん遠ざかってゆく。



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