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犬派のねこまんま 32である byねこじゃらし

<ゾーンてヤツだったのかもしれない>

 オリンピックとか国体とか、 そういう たいそうな話ではない。
 中学校の体育祭の話である。

 ある日のホームルームで、 競技出場選手の割り振りが行われたのであった。
 自薦他薦で次々と決まってゆき、
 最後に残ったのが、 走り幅跳び と 吾輩になった。

 まずいなとは思った。
 運動神経も、 跳躍力も、 足の長さも、足りない。
 だからといって、 では何が得意なんだと聞かれても、無い
 自らやってみたい競技も、 特に無い
 何に出場しようとも、 結果に変わりはないであろうことも明らかであるから、
 まあ、良いか、 と思うしかない。
 流されやすい中学生であった。

 当然のことながら、 入賞など望めるはずはないのだが、
 放課後に、一応練習はした。
 砂場を使用できる日には、 必ず練習した。
 スマホはもちろんのこと、 携帯やコンピューターや ゲームが無く、
 宿題を都合よく忘れる 勉強をしない中学生にとって、 時間などいくらでもある。
 ちょうど良い暇つぶしになるので、 毎日練習した。
 皆勤賞ものだ。

 これだけ練習すれば、 記録が悪くても クラスメイトは諦めてくれるだろう。
 そういう姑息な考えも あったかもしれない。
 中学生にもなれば、 それくらいの企みは可能である。

 とにかく、 ほぼ毎日砂場で遊んで…… もとい、 練習した。
 練習に来るメンバーの中でも 吾輩が一番のチビであった。
 背が高くて足の長い子が、 気負いもせずに跳んだ距離にさえ、
 吾輩が必死になって跳んでも、 遠く及ばない。
 体育祭までの日課として、 こなしていたようなものだ。

 そんな風に、 跳んだり跳ねたりしていた ある日のことである。
 何回か跳んで、 少し楽しくなってきた頃、 吾輩の番が回って来た。
 なにげなく走り出した吾輩は、 跳躍に向けて踏み切った。

 その瞬間である。

 身体の あらゆる部分と、
 空っぽな頭と、
 周りの空気のようなものが、 ぴたり と一つになった。

 空を飛んだ…… と思った。
 気持ち良かった。
 すこぶる気持ち良かった。

 もしもあの時、 目の前に マイクを突き出されていたら、
「チョー気持ちいい!!!」
 と 言っちゃったかもしれない。
 砂場には、 他の子が跳んで出来た穴が いくつか残っていた。
 足が長くて 幅跳びが得意な子がつけた穴と同じくらいか、
 少し越していたような気がするが、気にならなかった。

 次の順番を待とうと 並んでいると、
 巻き尺を持った教師が すっ飛んできた。
 どうやら、職員室の窓から、練習を眺めるか見張るか していたのだろう。

「さっき跳んだのは、 誰だ!」
 勢い込んで 叫んだのであった。
「さっき」とは何だ。 意味不明である。

 ところが、 その場のみんなが、 いっせいに吾輩を指さした。
 何がなんだか よく分からないまま、
 吾輩は 教師にせかされて、 順番を無視して 跳ばされる羽目になった。
 今度は、 真面目に一所懸命に跳んでみた。
 戻っていた。
 情けないほど、 ちょろっとしか跳べてない。

 教師はがっかりし、 諦め悪く 巻き尺で計ってはみるものの、 計るまでもない。
「なんだ、 全然駄目じゃないか」
 怒ったように言い、 首をひねる。
 吾輩はというと、 がっかりされてもなあ~、 これが普通だし、
 とか 思っていたのであった。

 実際に どれほど跳んだのかは 不明である。
 巻き尺は間に合わなかったし、 目撃者も十人足らず。
 証拠はない。

 だが、 そんなことは どうでもいいくらいに気持ち良かった記憶だけがある。
 吾輩は、 あの時、 翼も無しに、 空を飛んだ。



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コメント
1971: by lime on 2014/02/16 at 00:45:43 (コメント編集)

それはとっても貴重な体験ですよね。
でも、確かにそんな瞬間が、何かの拍子に訪れるのかも。何かの条件がすべて整ったんでしょうね(なんかよくわからないけど)

体育の授業というもののおかげで、すっかりスポーツに拒否反応を持ってしまった私ですが、うん、確かにそんなことがあったような気がします。(私は走高跳で)

記録に残らなかったっていいんですよね。気持ちよく飛んだ記憶がのこっているんですから^^

1972:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2014/02/16 at 10:11:10 (コメント編集)

スポーツが得意な人にとっては、よくあることなのかもしれませんが、
ねこじゃらしにとっては、驚異の不思議体験だったのです。

ひょっとして、
オリンピックに出るような人には、日常茶飯事なのかもしれませんね。
とんでもない活躍を見ると、そんなことを思う今日この頃です。

1973:上へ by miss.key on 2014/02/16 at 23:44:12 (コメント編集)

 こんちはー、あんじょうしてまっか。
 むかしむかしの市内陸上大会の事や。兎に角全員参加。競技選定で最後に残ったのが走り幅跳びと俺や。なんや同じ様な経験してるのぅ。で、実際跳んだら校内2位!凄いやないけーて、選手二人の内の2位やで、結果なんぞ言うまでも無いわ。

1974:Re: 上へ by しのぶもじずり on 2014/02/17 at 00:11:55 (コメント編集)

miss.key 様、いらっしゃいませ。

やっぱり、走り幅跳びが最後に残るんですね。
人気ないなあ。地味ですものね。
選手が二人というのを内緒にしておけば、堂々の銀メダル ってか。

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