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馬十の辻に風が吹く 第二章―5


 三匹のうち 尾黒(おぐろ)という名の猫が、
 高貴な生まれのはずなのに 気性が全くの野生である。
 庭に訪れる小鳥のうち何羽かが 油断した隙に襲撃され、 無残な最期を遂げた。
 内裏からは ネズミが姿を消した。
 後始末をさせられた女官たちの顰蹙(ひんしゅく)をよそに、
 文字通り猫可愛がりをしている木五倍子は それさえも自慢で、
 小さな狩人などと呼び、 事あるごとに ますます自慢が増え、
 ついには 紅椿(こうちん)殿に住む妃がうんざりして 機嫌を損ねるまでになった。
 こちらは 幸真千を生んだ母である。
 紅椿(べにつばき)様と呼ばれている。

 目論見があって取り入るつもりだったのか、 単にご機嫌取りだったのか、
 ある貴族が、 勇猛果敢なことで有名な北州犬を 紅椿に献上した。
 アホである。
 成犬ならば違う経過をたどっただろうが、 あいにく 生まれたばかりの子犬であった。
 さっそく 尾黒に鼻づらを噛みつかれて 大騒ぎになった。

 一触即発の木五倍子と紅椿を どう言いくるめたものやら、 帝が収めたものの、
 件(くだん)の貴族は 隠居する羽目になった。
 後継ぎがしっかりしていたから、 かえってその貴族の家は安堵したとか。
 北州犬は 心的外傷から すっかり怯えてしまい、 他に引き取られたが、
 尾黒の方はというと、 いっそう調子をこいた。
 以来、 犬を見ると、 自分よりも大きかろうがなんだろうが、
 かまわずインネンをつける という厄介な行動をとるようになったから、
 内裏に犬は ご法度(はっと)である。
 修羅場になる。

 門番たちも その辺の事情は重々承知しているから、 日々警戒を怠らないという。
 背衛が、 事故ではなく事件の可能性が高い と言った理由に、
 今更ながら納得した真咲であった。

「あのう、 つかぬ事を尋ねますが、
 紅椿様の嫌がらせということは……」
 花澄は ちらりと片頬をゆがめた。
 もしかしたら、 笑ったのかもしれない。

「根に持つ方ではありませんが、
 そんな分かりやすい嫌がらせをする方でもありません」
 聞かなきゃ良かった。
「人間を襲うほど 暴れん坊な野犬だったのでしょう? 
 騒ぎも起こさずに、 どうやって内裏に連れて来たのかしら」
「暴れん坊などという可愛いものではありませんでしたわ。
 生け捕りには出来なかったくらいです。
 正気をなくしていたように見えました。
 あの様子では、 一時もじっとはしていなかったでしょうね。
 こっそりと連れてくるのは 無理だったでしょう」
 結局、 判らないままに 今に至っているということである。

「お二人が襲われる理由に、 心当たりとかは無いのですか」
「有ったら苦労はしませんわ。 こっそり締め上げて吐かせています。
 ぼんやり陛下とか、 明るく元気なだけが取り柄の東宮様なら、
 お立場上 襲われても文句はありませんが、
 よりにもよって 役立たずの…… あら、 言い間違えましたわ。
 いとけないお二方を殺したところで、 何かの足しになるとも思えませんのに」
 まるで日常会話の続きのように、 淡々と語る花澄であった。
「うわっ、 陛下と東宮殿下なら 有るわけですね。
 その、 心当たりが」



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コメント
1958: by キョウ頭 on 2014/02/10 at 21:00:40

「こっそり締め上げて吐かせる」だの、「よりにもよって 役立たず」だの…。
素敵です、花澄姉さまw

1959:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2014/02/10 at 23:23:49 (コメント編集)

作者の私とは正反対のタイプです。
ほんとです。

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