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馬十の辻に風が吹く 第一章―7

「残念です。
 私に腕力があれば、 美しいあなたを抱きかかえて、
 足元を汚させることもないでしょうに。
 悲しいかな 右腕に力が入りません」
 葦若の宰相は、 ふと顔を伏せて うれい顔を作る。
 はたから見ていると、 いかにも わざとらしいが、 式部は気にしない。
 心配をしながらも、 うっとりとした様子だ。

「では 噂は本当でございますの? 
 幼き頃、 賊(ぞく)に襲われて 右肩を矢で打ち抜かれたというのは。
 お命も危うかったとか」
 真咲には心当たりのある話だが、 そんなはずはない と小さくかぶりを振った。
 あの凛々しかった少年が、 こんな色ボケ男に育つなんて いやすぎる。
 おまけに、
 一心不乱に唱えた呪が 効かなかったなんて思いたくない。

 あの時、 呪は 確かに体の奥深くまで沁み入ったはずだ。
 偵察に来た男たちから急いで隠れたから、 多少の心残りはある。
 もしかしたら 傷痕(きずあと)は残ったかもしれない。
 しかし、 体の機能がそこなわれないように 気を配ったのだ。
 どうか別人であってほしい と心の底から願った。
 しかし、 どんなに願ってみても、 いやな感じは消えてくれない。

 確かめたい。 でも、 確かめるのが怖い。
「ああ……、 葦若の宰相は、 もしかして……」
 口の中で つぶやいた小さすぎる声を、 幸真千は 聞き逃さなかったらしい。
「葦若は 石動原家の生き残りなのだ」
 はきはきと 大声で教えてくれた。

 まさに、 しなだれかかろうとしていた式部が、 驚いて悲鳴を上げた。
 そのまま 態勢を崩(くず)して…… 転ぶ。

 幸真千が立ち上がった。
「やあ、 驚かせてすまぬ」
 ばれてしまっては仕方がない。
 桜子が、 次いで 真咲も渋々草叢から出た。

 式部は 差し出された宰相の左手に すがりついて立ち上がりながらも、
 複雑な表情をしている。
 あからさまに うとましい顔もできないというところか。

 宰相は、 すがりつかれて よろけたりしている。
「皇女様と皇子様でしたか。
 おや、 そちらの個性的な方はどなたでしょう」
 照れるそぶりも見せず 笑顔で問いかけられて、 真咲は どっぷりと落ち込んだ。
 渾身の呪は 効かなかったのか。
 それにしても、 こんな展開はひどすぎる。
 四年もの間、 思い出すたびに 胸の奥がむず痒くなっていた相手がこれか。
 しかも、 右腕どころか、 とことん力がなさそうだ。
 これでも男か。
 頭の中で、 何かが ガラガラと音をたてて崩れていくのを感じた。
 せっかく手に入れたと思っていた、 癒しの呪への自信が吹っ飛んだ。
 ついでに、 私の初恋を返せ――っ。



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コメント
1937: by キョウ頭 on 2014/01/27 at 20:54:02

ワリとよくある、「初恋その後」の典型かと思いますw。
真咲、これしきの事で負けるでないぞ

1938:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2014/01/27 at 23:20:42 (コメント編集)

わっはっは ありがちですか。
負けませんとも。物語は始まったばかりです。
応援ありがとうございます。

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