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馬十の辻に風が吹く 第一章―6

 真咲は 草叢の後ろ側に回ってみた。
 皇女と皇子は 恐れる風もなく、 一緒にくっついてくる。
 そこには 池に流れ込む小さな流れがあり、
 たどってみると 内裏を囲む築地垣(ついじがき)に突き当たった。
 垣には取水口の穴が切ってあるが、 頑丈そうな格子がはまっており、
 無論、 野犬など通れそうにない。
 ついでに言うと、 河童も通れそうになかった。

「あら、 あんな所にも お花が咲いているわ」
 桜子は嬉しそうに 草叢の近くに戻る。
 そこは内裏の庭といより 野原に近い。
 野草というか、 雑草ともいうべき草が 野放図(のほうず)に生えている。
 野原というには だいぶ狭いが、 陽だまりになっていて気持ちがよかった。

 桜子が目に留めたのは、 とても小さな草だ。
 丈は指の長さ程しかなく、 ごく細い茎にそって、 細くとがった葉が付いている。
 頂に 白く小さな花を咲かせたものが 二輪だけあった。
「可愛い。 なんという花かしら」
 桜子の言葉に誘われて、 真咲と幸真千も傍に寄った。

 真咲のよく知っている草である。
 こんなところに生えているとは思わなかった。
「まだ初夏だというのに 珍しいですね。
 普通は 夏の終わりから秋の初めにかけて咲きます。
 名前は……」
 その時、 ゆっくりと近づいてくる足音がした。
 二人だ。
 声も聞こえる。
 小さな花を見ようと、 三人とも身をかがめていたこともあって、
 やってきた二人は 真咲たちに気がつかない様子だ。

「まあ、 こんなさびれた場所にも 花が咲いていたのですね。 きれいだわ」
 媚(こび)を含んだ若い女の声である。
 真咲は 草叢を少しかきわけて、 隙間からのぞいてみた。

 裕福な家柄なのだろう。
 近頃都で流行りの 色鮮やかなものを身にまとい、 髪型も今風である。
 真咲のあこがれた姿をしている。
 悔しい。

「なんの、 どんなに美しい花も あなたの美しさにはかないませんよ。
 ああ、 まぶしくて目がくらみそうだ」
 歯の浮くような台詞(せりふ)を吐いているのは、
 きらきらしくもド派手な衣装の 若い男。
 見えた横顔は 驚くほどの美形だが、 こいつは何者だ。
 気持ち悪いことを言うな、 と思っていると、
 同じように覗いていた桜子が、
「葦若(あしわか)の宰相(さいしょう)と雪明りの式部だわ」
 と小声で教えてくれた。

 宰相と呼ばれているということは 参議だ。
 太政官(だじょうかん)の中でも 大納言、中納言に次ぐ重職で、
 実力派が多いと聞く。
 ああ見えても できるのかもしれない。
 気持ち悪いなんて思って悪かったのかも……。
 真咲は ちょっぴり反省した。

「足もとが良くないところですのね。 お手を貸していただけますか」
 式部が甘えた声を出す。
 さりげなく触(さわ)る気だ。
 真咲は心配になってきた。
 まさかとは思うが、
 幼い二人の教育に悪いようなことを 始める気じゃないでしょうね。
 幸真千まで 一緒になってのぞいているのだ。



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