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赤瑪瑙奇譚 第五章――8



「おい、 イヒカは まだ戻らないのか。
 珍しいな、 こんなに遅くまで ふらついているなんて」

 調理場では 夕餉(ゆうげ)の支度が 始まっていた。
 調理人も 下働きも 一斉に動き出す。
 いつもより忙しい気がするのは、 イヒカが いないせいだと、 苦笑いする者がいる。
 知らぬ間に 役に立つようになっていたのだ。

 ばたばたと 慌しい時間が 過ぎていった。
 しかし、 イヒカは 姿を見せなかった。


「イヒカはどうした。 しょうがねえな。 くたびれて どっかで寝ちまってるのか」
 さすがに心配になってきた一人の料理人が、 わざと 冗談に紛らせるように言ったが、
 口調の中に隠しきれない不安が、 かえって その場を暗くした。

「なあに、 飯には帰ってきますよ。 あいつが 飯を抜くわけが無え」
 吹っ切るように 他の一人が言い、 無理に笑って見せた その時、
 戸口に 小さな影が、 しょんぼりと立つ姿が見えた。 妙に 陰が薄い。

「おっ、 イヒカか。 イヒカだな。 帰ってきたか。
 どうした、 幽霊みたいに ぼんやり突っ立っているんじゃない。 さっさと入って来い」
 料理長が 目ざとく見つけて 声をかけた。 彼も気になっていたのだろう。

「そりゃあ 大遅刻だもんなあ。 肩身が狭くて、 幽霊にも なろうってもんだ」
 若い見習いが からかうように言うが、 まだ 、どこか 心配そうだ。

 からかいにも 表情を変えることなく、 イヒカは 青白い顔で すうっと入ると、 深々と頭を下げた。
「ごめんなさい」
 いつもの元気な声ではない。 消え入りそうなほど、 か細い声が 漏れた。

「何だ何だ、 いよいよ幽霊だな」

 驚いた顔の料理長の前に出ると、 頭を下げたままで、 イヒカは 大鍋を差し出した。
 鍋には 大きな傷がついていた。

 何処まで信じてもらえるか不安を持ちながら、 出会った出来事を逐一話した。
「……じゃ何か、 その鍋で カムライ様の命を救ったのか。 ……すげえじゃねえか」
「いえ、 たまたまです。 俺が救ったわけじゃない。
 悪者が投げた剣が、 背中に背負っていた この鍋に当たって 跳ね返っただけだから」
 思いがけない反応に戸惑って、 イヒカは まるで言い訳するかのように返した。

「おお、 それでもすげえ。 俺らの英雄を救ったんだからよ」
 調理場の人々が 次々とにぎやかに集まって、 イヒカを囲み 質問攻めにし始めた。

 イヒカは 突然顔を上げ、 勢いのある大声で言った。
「殿下を助けたのは、 『怪傑赤瑪瑙頭巾』 だ」

「何だ そりゃあ」
「疾風(はやて)のように現れて、 疾風のように去って行く、 正義の味方だ。 かっこいい!」

 嬉しそうな満面の笑みで叫んだイヒカは、 もう幽霊ではなく、 いつもの元気な男の子だった。

 大鍋はもう使えない為、 『英雄救済鍋』 と書いた紙を貼られて、 調理場の壁に 飾られることになった。
 その後の調理場では 『怪傑赤瑪瑙頭巾』 が、 ひそかな評判を 呼んだという。


                                第六章につづく


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by まとめwoネタ速neo on 2012/06/11 at 01:02:29

「おい、 イヒカは まだ戻らないのか。 珍しいな、 こんなに遅くまで ふらついているなんて」 調理場では 夕餉(ゆうげ)の支度が 始まっていた。 調理人も 下働きも 一斉に動き出す。

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コメント
149: by ポール・ブリッツ on 2012/06/11 at 09:47:53

精神状態は大丈夫ですが、渾身のジョークがウケなかったことの悲哀を全身で噛み締めております。(^_^;)

そういう人間なので、生温かい目でスルーしてくださいとほほほ。(^_^;)

150:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/06/11 at 11:42:36 (コメント編集)

いやいや、舌を噛んじゃったのかと思って。
お大事に。いや、違うか?

ご自分とこのキャラで遊んでください。

151:ポールさん・・・ by lime on 2012/06/11 at 17:45:32 (コメント編集)

ポールさんが、更新一回分のエネルギーを使ってしまった。
生温かい目でみてあげますよ^^;

カムライ、ユンとイヒカのおかげで、事無きを得ましたね。
カムライが、ヒーロー的存在なのでは、なさそうですね。
でも、そこがまた、変わり種で、面白いです。

カムライを陥れた賊は、だれの差し金でしょうね。
まだひと波乱、あるのでしょうか。


152:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/06/11 at 23:25:44 (コメント編集)

> ポールさんが、更新一回分のエネルギーを使ってしまった。
すいません。ちょっと脱力しました。

> まだひと波乱、あるのでしょうか。
これからが波乱の幕開けですね。

ひと波乱……ふた波乱……み波乱……

3256: by 椿 on 2015/10/22 at 19:29:11

ユンの中でカムライの株が上がった(^o^)
しかし、まだまだハッピーエンドへの道は遠そうですね。
三人の王子たち、それぞれ個性的ですがその裏でどんな企みが進んでいるのか。
全てが明かされる時が楽しみです。

3257:Re: 椿様 by しのぶもじずり on 2015/10/23 at 09:29:55 (コメント編集)

ちょうど真ん中へんです。
私は、真ん中が一番難しいと感じています。
だれないようにエピソードを重ねて、緩急を操って、終盤を盛り上げるようにもっていければ最高なんでしょうけど、さじ加減がよくわからない。
書き直すのは、真ん中あたりが一番多いです。

カムライをいい男にもしたい。
ありがとうございます。

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